今年、新型コロナウイルス感染症によって軽症で済むと考えられていた子供の命が失われ、根絶間際と思われていたポリオがイギリスやアメリカで検出された。小児科医の森戸やすみさんは「ワクチンで子供を守ることが大切。しかも妊婦さんが接種すると、おなかの子にも抗体移行するものもある」という――。
若い妊婦にワクチンを打つ女性医師
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子供が犠牲になった新型コロナ第6〜7波

コロナ禍はなかなか終わりませんね。新型コロナウイルス感染症の第6〜7波の際には、私のクリニックでも新規感染者が毎日たくさん出ました。第5波までと違って、第6〜7波は子供の感染者が多かったのです。

それまでは「子供は新型コロナにかかりにくい」「子供は新型コロナにかかっても重症化しないし、まして一人も亡くなっていない」という人の声が多く、2022年2〜3月に始まった子供用の新型コロナワクチンの接種率は2割程度と低いまま。そういったなかでの第6〜7波だったので、今年の1月1日から8月31日までの間に20歳未満の新型コロナによる死亡が41人も出てしまいました(※1)。詳しいことがわかったお子さん29人のうち、半数以上が基礎疾患がないこともわかっています。

そのほか、多くの子供たちが新型コロナによる高熱や熱性けいれん、喉の痛み、頭痛などに苦しみました。私の患者さんでも「喉が痛くて水を飲むのもつらい」「頭が痛くて眠れない」という子が多数いました。当然、どのワクチンも強制されるものでも、義務でもありません。むしろ、子供にはワクチンを受ける権利があるのです。ぜひ、正しい知識を得た上で判断していただけたらと思います。

【図表1】新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例の報告数
出典=国立感染症研究所「新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第一報)」

※1 国立感染症研究所「新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第一報)

未接種のお母さんと赤ちゃんが心配

私が診療していたなかで非常に心配に思ったのは、新型コロナワクチン未接種のお母さんと赤ちゃんが、他の家族から感染してしまう事例が相次いだことです。そうした事例でお母さんにお話を聞くと「妊娠中のワクチン接種が不安で、今も授乳中なので接種できないと思っていました」という返答がほとんど。

でも、妊娠後期に新型コロナに感染してしまうと、わずかながら早産の危険性が高くなったり、妊婦さん自身も重症化するリスクが高くなったりすることが報告されています。また、赤ちゃんが新型コロナに感染すると、哺乳できなくなったり、熱性けいれんや脳症になったりするリスクが高いのです。

一方、新型コロナワクチンは新しいものではありますが、すでに世界中で数多く接種されています。その結果、妊娠中でも授乳中でも、妊娠を計画中でも何も問題は起きていません(※2)。さらに日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会が連名で、妊娠中でも接種するメリットのほうが大きいこと、妊婦さんと一般の人で副反応には差がないことを説明しています(※3)

「新しいmRNAワクチンだから」「胎児に異常が起こる、不妊症になるというウワサがあるから」と妊娠中の新型コロナワクチンを避けるのはよくありません。どうしてもmRNAワクチンや外国製ワクチンに抵抗があるようなら、日本の会社である武田薬品工業の不活化ワクチン「ノババックス」を接種できる医療機関や接種会場を探してみましょう。

※2 厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A
※3 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会「新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて