コロナ禍にANAが始めた機内食販売が好調だ。楽天市場では1年に125万食を売り上げたという。旅客需要の激減で大量に余った食材を無駄にしないための苦肉の策が、思わぬヒットを生み出した。日経ビジネス・高尾泰朗記者の著書『ANA苦闘の1000日』(日経BP)から、一部を紹介しよう――。(第4回)

「2人前1万円」国際線ビジネスクラスの機内食が大人気

「3年前から研究して作り上げた、自慢のハンバーグをそのままお届けします」

ANAケータリングサービス(ANAC、東京・大田)の川崎工場。羽田空港から多摩川を挟んで対岸にあるここは、羽田を出発するANAの国際線などの機内食の製造を担っている。

2021年11月、この工場に集まった記者たちにANACの総料理長である清水誠が紹介したのは、ネット上で販売を始める国際線ビジネスクラスの機内食だった。

ANAビジネスクラス機内食 ハンバーグステーキセット
写真提供=ANAHD
ANAビジネスクラス機内食 ハンバーグステーキセット

メインディッシュは「国産牛100%で、そこに雌しか持っていない脂を加え、クリーミーに仕上げた」と清水が胸を張るハンバーグ。商品は冷凍の状態で届ける。試食すると、肉は粗びきでしっかりとした食べ応えがあり、ソースに負けずに肉のうまみを感じられた。付け合わせの野菜も冷凍とは思えない味わいだ。

セットにはハンバーグのほか、3種類のパン、そしてフランボワーズのムースが付く。

パンは香ばしく、ムースは単体で販売しても好評を博しそうなクオリティーだった。価格は2人前で1万円。安いとは言えないが、当初用意していた数量は発売日に完売した。

なりふり構わぬ増収策の一つに見えるこの機内食販売。清水すら「予想外だった」と話す人気ぶりの裏には、ANACの多角化を託されて入社した「外様」の奮闘があった。