コロナ禍で旅客需要激減に見舞われたANAHDを救ったのが、貨物事業の存在だ。同社ではその収益性を高めるために、貨物事業を構造からつくり直した。日経ビジネスの高尾泰朗記者の著書『ANA苦闘の1000日』(日経BP)から、一部を紹介しよう――。(第3回)
貨物専用機は100トンだが、旅客機は2トンしか運べない
2020年11月1日朝、福岡空港。ANAHD傘下のLCC、ピーチ・アビエーションの機体に、白い発泡スチロールの箱に入った野菜などの生鮮食品がベルトコンベヤーで積み込まれていく。機体下部の貨物スペース(ベリー)内ではスタッフが箱を丁寧に積み重ねていた。
ピーチはこの日、貨物事業に参入した。
福岡空港から那覇空港、新千歳空港に向かう旅客便を手始めに、貨物便としてのコードシェア(共同運航)をANAと実施。ANAHDの貨物事業会社、ANAカーゴがピーチの代わりに貨物スペースの販売を担う。
初便となった那覇行きの便に積んだのは、生鮮食品に加え、生活雑貨など562キログラムの貨物。当時のANAカーゴの国内貨物販売部九州販売支店長、尾田真は「九州は生鮮食品や工業製品の貨物需要が大きい。収益性は期待できる」と意気込んだ。
ただ、562キログラムという積載量はかなり小規模だ。
例えば、同じLCCで親会社のJALと国際貨物便のコードシェアをしているジップエア・トーキョー。米ボーイング製の中型機「787-8」を使用しており、ベリーには約20トンの貨物を積める。ANAが保有する貨物専用機、ボーイング「777F」なら最大100トンを運べる。
対してピーチが使うのは欧州エアバス製の小型機「A320」。ベリーには最大約2トンしか積めない。実際は旅客の手荷物なども積み込むため、1便で運ぶ貨物の想定は800キログラム程度だ。また、ピーチが保有する機体は貨物コンテナを積み込めないという制限もある。
ピーチは、フルサービスキャリアに比べて駐機時間を短く設定している。運航効率を高めて航空券を安価に設定するのがLCCモデルの根幹だからだ。貨物が増えたからといって時間は延ばせない。人海戦術で何とか荷物を積み込むしかない。