需要逼迫で運賃はコロナ前の約2.5倍に
航空貨物の需給逼迫は徐々に長期化の様相を呈し始める。
20年秋ごろにはコロナ禍によって一時的に落ち込んでいた自動車生産などが正常化。主要な輸送手段である海運は欧米での巣ごもり需要の高まりや港湾などでの人手不足、それに伴う船舶の滞留やコンテナ不足などによって需給がタイトになっていた。
高速輸送を実現する航空にコスト増を覚悟の上で貨物が流れ、完成車など通常時であれば航空で運ばない商材を扱う機会が増えていった。精密機器のため船では運びにくい半導体製造装置など、もともと航空貨物を使っていた物品の需要拡大も重なった。その結果、航空貨物の運賃は上昇。国際航空貨物の重量単位当たりの運賃は22年3月期、19年同期に比べ2.5倍弱に高まった。
この局面でANAHDにとって何より重要だったのは、収益力が高まった貨物事業、特に国際線のそれにどれだけ経営資源を振り向けられるかだ。
“旅客機”を使った貨物専用便まで登場
あらためて整理すると、航空貨物の輸送手段は主に二つある。
一つは旅客便のベリーを使って運ぶ方法。もう一つは、貨物専用機を使って輸送する方法だ。ANAHDは11機の貨物専用機を保有する。
国際線の貨物便の運航計画は、旅客便と同じくANAのネットワーク部などが中心となって決めていく。ANAカーゴのグローバルネットワーク部が加わって調整しながら、おおむね半年ごとに定める。平時であれば、まず旅客需要に合わせ旅客便の運航計画を定め、そのベリーで貨物を運ぶ。その上で貨物需要が旺盛な路線に貨物専用機を投入する、という流れだ。
ただ、旅客便の運航が大幅に減ったコロナ禍では「貨物専用機をどの路線に投入すれば需要に最大限応えられるか」から考えた。どれだけ貨物専用機の稼働率を高め、収益を大きくできるか、という観点だった。「整備部門とも調整しながら、安全に支障がない範囲であれば日々の細かい作業をずらしてもらってでも貨物機の稼働時間を増やしている」。
ANAカーゴ・グローバルネットワーク部の森愛美は話す。
それでも供給が足りない路線に、旅客機を使った貨物専用便、すなわち機体上部の客室は空にして、ベリーに貨物を搭載して運ぶ便を設定した。少しでも多くのキャッシュを生み出すために、通常時では考えもしなかった手法を採ったわけだ。