トヨタ自動車の報告書や企画書には、必ず入れなければいけない4つの項目があるという。それはどのようなものなのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタがやる仕事、やらない仕事」。第3回は「トヨタの資料作成のルール」――。
プリントアウトした書類や、タブレット端末に表示されているグラフの数々
写真=iStock.com/mkurtbas
※写真はイメージです

「A3用紙1枚」の本当の使い方

「書類はA3の紙1枚に書け」
「冒頭に結論を書け」

トヨタではそういうふうに書類を書くと思っている人は多いでしょう。しかし、正しくは次のような表現になります。

「書類はA3の紙1枚を横にして書く。ひと目で全体がわかる書類にする」
「冒頭に書くのは結論ではない。問題点の背景説明だ。冒頭に結論だけを書いても、読んだ人はいったい何が書いてあるのかわからない」

わたしが話を聞いた幹部は「A3の紙1枚に書類をまとめる」というルールを作った人のひとりです。

なぜ、彼がそういうものをまとめる役になったのか。それはトヨタのグローバル化と深い関係があります。

【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら
【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら

幹部は説明してくれました。

――トヨタでは仕事のやり方、トヨタ生産方式の考え方などは長く徒弟制度で人から人へ伝えてきました。

教室に人を集めて教科書やマニュアルで伝えるのではなく、朝から晩まで仕事の現場で、一対一で少しずつ教えていたのです。茶道、華道の家元が弟子に直接、教えるような方式だったのです。

「長く書けば知的に見える」というのは間違い

1986年、トヨタはアメリカのケンタッキーに工場を作りました。そうすると、仕事のやり方、トヨタ生産方式を海外の従業員にも伝えなくてはならない。そうなると、マニュアルが必要になってくる。それで、これまでの教え方を一般化、グローバル化する必要に迫られたのです。

そして、私が担当したのは書類の書き方のフォーマットを作ることでした。アメリカに進出して、現地社員から書類をもらってみると、彼らはロジカルにとにかく長い文章を書いてきたんです。多ければ多いほうが知的な人間だと主張したいところもあったのでしょう。

しかし、僕らからしてみれば長い英語の文章を読むのは勘弁してくれよという感じでしたし、とにかく文章を最初から最後まで読まなければわからない。それでは困ると、A3の紙1枚だけに書くと統一することにしたんです。

ただ、アメリカ人だけじゃありません。世の中には「長い文章ほどいい文章だ、知的な文章だ」と思っている人がたくさんいます。しかし、そんなことはちっともありません。知性と文章の長さには何の関連性もないです。