※本稿は、藻谷ゆかり『山奥ビジネス』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
上下水道がない珍しい北海道の田舎町・東川町
北海道・東川町は、「北海道最高峰の旭岳を有し、鉄道も国道も上下水道もない町」である。これだけ聞くと、どんな山奥の町かと思うが、実際には東川町は北海道らしい広々とした平地の町だ。そこに広がる水田は大きな区画で区切られ、「北の平城京」とも呼ばれている。国道は通っていないが、北海道第2の都市である旭川から車で30分ほどの位置にあり、旭川空港はさらに近く、車で10分ほどで着く。飛行機を利用すれば、東京に2時間くらいで行ける便利なロケーションにあるのだ。
また上下水道がない自治体は全国でも数少ないが、実は大雪山系からの伏流水が町内を流れているため、東川町民はその伏流水をポンプでくみ上げて各家庭で使っている。つまり東川町は、家庭の水道から天然のミネラルウオーターが出てくる豊かな町なのである。
人口8500人の町の約半分を移住者が占める
人口8522人(2022年7月末現在)の東川町は、この25年間で人口が20%も増えている全国でも稀有な町である。現在では、町の人口の約半数が移住者であるという。
東川町の人口は1994年の約7000人を底に、現在の人口まで徐々に増えてきたのだ。「旭川のベッドタウン」といわれるが、東川町には多様なビジネスがあり、昼間人口の方が夜間人口よりも多い。だから「旭川のベッドタウンだから人口が増えた」という理由は当てはまらない。
また東川町には町立の日本語学校があり「外国人学生の人数で人口をかさ上げしている」と言われることもあるが、それも違う。日本語学校の卒業生がそのまま東川町に定住することはほとんどなく、日本語学校の入学者数は卒業者数で毎年ほぼ相殺されている。従って日本語学校の存在は一定の人口を加算はするが、ネットでの人口増にはつながらない。
それでは一体、なぜ東川町で人口が増加し続けているのであろうか?