※本稿は、大森健史『日本のシン富裕層 なぜ彼らは一代で巨万の富を築けたのか』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
「じゃ、妻と2人の子どもたちと、家族でドバイに移住します」
40歳前後のその男性は、パーカーにスウェットパンツ、白のスニーカーというラフな服装で現れた。小さなクラッチバッグをひとつ持ち、「こんちは」と軽くあいさつをする。
「マレーシアがいいって聞いたんで、移住しようかと思うんですよね」
人生の大きな転機ともなりそうな「海外移住」を、数日間の小旅行にでも行くような気軽な口調で話題にする。
「マレーシアは、最近ビザの条件が改悪されたんですよ」
必要な資産額も3倍ほどになったこと、年間90日の居住義務もできたことなどを私から丁寧に説明すると、
「へぇ、じゃあ、どこの国がいいんですか?」
と質問をしてくる。
「そうですね、今はドバイが人気です。『全世界所得課税』ではなく、そもそも現時点では所得税も法人税もありません。日本の国内源泉所得に対する日本の課税以外、ドバイでの収入に対しては当然ゼロですし、贈与税も相続税もないんですよ」
「それは税金面でいいですね。でも中東って、なんか治安悪そうなイメージなんですけどねぇ」
「いえいえ、治安も良く、お子様が英語教育をしっかりと受けられるような学校も充実していて、物価も東京と同じくらいなんですよ」
現地の写真などを見せて説明すると、
「なるほどねぇ。僕、ネットで情報商材を販売している仕事なんですけど、ドバイってネット環境とかはどうなんですか?」
「もちろん、日本とそれほど変わらず、充実していますよ、ネットの投資家も多いですから」
そう答えると、彼は一瞬の間を置いただけで、にこりと“即決”した。
「じゃ、妻と2人の子どもたちと、家族でドバイに移住します」
その場で移住手続きに関する具体的な説明が、さっそく始まった……。
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驚くかもしれませんが、これが「シン富裕層」と呼ばれる人たちの、海外移住相談の一幕です。