※本稿は、ヒカル『心配すんな。全部上手くいく。』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
高校卒業後数カ月で工場をやめてニート生活
僕は高校卒業後、地元兵庫県の田舎町にある工場に就職した。でもその職場の方針とソリがあわず数カ月でやめた。そこから自宅でいわゆるニート暮らし。毎日、ゲームに明け暮れた。自分が歯がゆかった。ゲームと格闘しながら、理想と現実のあいだでただ苛立っていた。
そんな僕を見かねた友達がこう言ってきた。
「兄貴の話をいっかい聞いてみないか? なんかアドバイスしてくれるかもしれないよ」
聞けば、その人は会社を経営しているらしい。暇を持て余していた僕に断る理由はなかった。そしてその出会いが僕の人生の決定的な転機になる。もちろんそのときそんなことは想像すらしていなかった。
数日後、約束したファミレスで待っていると、その人物はあらわれた。高級外車で乗りつけ、颯爽と降り立つさまには成功者のオーラがあった。田舎のファミレスには不釣り合いなオーラだった。年齢は見ため30手前。イケメンで、いかにも仕立てのよさそうなスーツを着ていた。
ヒカルを変えた若手会社経営者の一言
彼はテーブルをはさんで腰かけると、やわらかな物腰で自己紹介をした。そこからしばらくは他愛もない世間話。彼の話しぶりは終始おだやかだった。
「で、きみはいくら稼ぎたいの?」
ふいにそう切り出された。僕は答えに迷った。金持ちになりたいとは思っていた。でも具体的な金額までは考えたことがなかった。
「月100万円あったら最高っすね」僕はとりあえずそう返した。
「なるほど。きみはいまなにをしてるの?」
つい最近まで工場勤務をしていたが不満があってすぐやめたこと。いまは無職でなにもしていないこと。僕はありのままを正直に話した。
聞き終えた彼は小さくうなずいたあと口を開いた。
「工場か」無職のほうを指摘されると思ったがそうではなかった。「工場勤務で月100万も稼げるかな?」
もっともな意見だった。僕は苦笑いするしかない。で、彼はさらにこう続けた。
「きみがやってるのはプロ野球選手を目指しながら、だらだらとサッカーの練習をやっているのと一緒だよ」
なにも言い返せなかった。ガツンと金槌で殴られたような気分だった。僕はおもわず唇を噛んだ。彼の目から笑みが消えていた。