2012年度まで4期連続で赤字だったソニーの業績が急回復している。直近の決算では連結営業利益が1兆円を超え、過去最高益を更新した。一橋大学の野中郁次郎名誉教授は「『元気なソニー』へと再生を成し遂げた立役者は、平井一夫氏(前会長)だ。平井氏が定めた『感動』というパーパスが、社員の煮えたぎる情熱のマグマを解き放ち、ソニーを変えた」という――。

※本稿は、野中郁次郎『野性の経営 極限のリーダーシップが未来を変える』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

2012年04月12日、ソニーの経営方針について説明する平井一夫社長(東京・港区)※肩書は当時。
写真=時事通信フォト
2012年04月12日、ソニーの経営方針について説明する平井一夫社長(東京・港区)※肩書は当時。

ソニーは4期連続の赤字から過去最高益にまで復活した

最近のニュースで久しぶりにワクワクしたのは、ソニーグループとホンダがEV事業で提携したニュースだ。戦後日本の復興を支え、世界における日本企業のイノベーション力を顕示し、地位向上に貢献した2社がタッグを組んだのである。100年に一度と言われる大変革期の自動車産業において、どんな新たな展開を見せてくれるだろうか。

ソニーグループは、リーマン・ショック後の2009年3月期に最終赤字に陥り、2012年度までに四期連続で赤字を計上した。しかしその後、2016年3月期に黒字に転じたあとは、順調に業績を回復していった。2021年3月期決算でソニーグループは初めて純利益が1兆円を超え、時価総額も15兆円を超えて21年ぶりに過去最高を更新し、2022年3月期決算も連結営業利益で1兆円を超え、こちらも過去最高を更新した。

「会社の存在価値は何か」社長就任直後にはじめたこと

「元気なソニー」へと再生を成し遂げた立役者は、平井一夫氏(前会長)だ。社長に就任したのは、2012年4月である。平井は、看板事業だったテレビ事業を別会社化し、パソコン事業の売却を決断した。ソニーの生き残りには、技術一辺倒ではなく、コンテンツとの融合を志向することが不可欠、そう考えた平井は、高付加価値路線を徹底し、韓国・台湾・中国勢とのコストの過当競争を避けた。思うように業績が回復しなかった当初は、「エレキ(エレクトロニス)を知らない」「アメリカかぶれ」などと社内外からバッシングの憂き目にあう時期もあったが、本社部門も含めた人員削減などの荒療治も行ないつつ、業績を急回復させた。

復活劇を駆動する原動力となったのは、平井が制定したミッション、ビジョン、バリューであり、その核となるコンセプトが「感動(KANDO)」である。ソニーには、「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達かったつにして愉快なる理想工場の建設」という「設立趣意書」がある。会社にとってもっとも重要な「価値」が何か、そしてソニーがなぜ存在しているのかという存在意義をわかりやすく示す経営理念が必要だと考えた平井は、社長就任直後から「設立趣意書」を何度も読み、考え抜いたという。