求めたのは同調する人ではなく「異見」をくれる人
そして平井は、多様化するソニーのビジネスの方向性を凝縮し、「社員の煮えたぎる情熱のマグマを解き放たせる」ことができるのは「感動」であるとの考えに至った。それは、「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」というミッション、「テクノロジー・コンテンツ・サービスへの飽くなき情熱で、ソニーだからできる新たな『感動』の開拓者となる」というビジョン、社員一人ひとりに求める姿勢をバリュー(行動指針)というかたちで表現された。ここで平井がいう「社員の煮えたぎる情熱のマグマ」は、人間の「野性」にほかならない。
平井の構造改革を支えたのが、現・社長の吉田憲一郎だ。平井は、自分に同調する相手ではなく、率直に「異見」をいう相棒を求めていた。前稿で異質なもの同士のぶつかり合いや葛藤から、新しいブレークスルーが生まれると述べたが、まさに二人はその典型であった。音楽やゲームなどエンターテインメント畑出身の平井と、財務畑出身で分析能力に優れていた吉田は、いわばアートとサイエンスを綜合するクリエイティブペアだったのだ。
犬型ロボットに組織の持てる技術・知識を結集させた
犬型ロボット「aibo(アイボ)」復活プロジェクトは、平井が推進した「感動」のモノづくりを象徴するプロジェクトだ。新しいaiboでは、感性価値を徹底的に追求し、人は共感する生き物であるという人間の本質に訴えた。
オーナーとaiboは共感という相互作用によって絆を深め、ともに成長する。メンバーたちは、身体の動作を使って表現される「ドギーランゲージ」を理解するために、犬に共感し、「犬の気持ち」になりきろうとした。本物の犬の動きを観察し、四足で歩いてみたり、四つんばいになって議論したりしてみた。感情移入しすぎたメンバーは、調子が悪い試作機に「どうしたんだ」と声をかけたりもした。
こうした開発工程を支えたのは、ソニーが蓄積してきた技術・知識(センシング技術、メカトロ技術、AIやクラウドとの連携など)である。これらの技術・知識を「感動」のものづくり、という共通目的のもと知の体系として総結集し、「生命感」を実現して完成へと至ったのだ。