多くの男性は今も、「出世しなくては」「モテなくては」といったさまざまな「男らしさ」の呪縛にとらわれている。近畿大学教授の奥田祥子さんは「商社に勤める33歳の男性は、モテるために料理教室に通い、婚活で彼女ができたが、結局自分の仕事や経済力に対する自信のなさに気付いて彼女と別れ、転職活動を始めた。低収入で自信が持てず、女性に積極的になれない男性は多い」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、奥田祥子『男が心配』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

料理教室に参加する男女
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「料理の腕を磨けば“モテる男”になれる」

収入の低さを家事などの生活力でカバーしてモテながらも、「男らしさ」の呪縛から抜けられずに苦しむ男性もいる。

2018年、当時29歳の商社勤務、加藤哲也さん(仮名)は、かすんでいた視界がパッと開けたかのように、いつになく清々すがすがしい表情で話した。

「こんな僕でも、料理の腕だったら今からでも磨くことができます。もともと掃除はそれほど苦にならないし、洗濯だって問題ない。これら家事力なら女性にアピールできるし、モテる男になれると思います。女性から選ばれやすいということです。経済力以外で女性にモテる要素はないかと必死に考えて、ネットで検索したり、関連した本を読んだりして、やっとたどり着いた答えなんです。あの頃の悔しさ、情けなさを思えば、どんなに険しくたって乗り越えてみせます。頑張りますから、見ていてくださいね」

「女性はみんな、収入を探ってくる」

「あの頃の悔しさ、情けなさ」とは、この取材の2年前にさかのぼる。

16年、関西の有名私立大学を卒業後に入社した中小の専門商社が、業界再編の波で同業他社に吸収合併され、雇用は確保されたものの、5年近く経験を積んだ営業部ではなく総務部への配属となり、給与も約1割減少した。そのことにより、大学時代の友人や仕事仲間が企画してくれる合コンに参加しても、自分をアピールできなくなったのだという。

16年のインタビューでは肩を落とし、こう語っていた。

「趣味や休日の過ごし方とか無難なテーマで会話しながら、女性は必ず早い段階でどんな仕事をしているのか、どこに勤めているのか、巧みに聞いてきます。相手の収入を探って、この男性と付き合って、結婚すれば、どれほどゆとりある生活ができるのかを確かめたいんでしょうね。それでいくと……僕は全くダメです。職場環境が変わってから、合コンで隣に座る女性がひっきりなしに入れ替わるのでどうしてかと考えたら、仕事のことを確認した直後の座席移動だとわかった。何と言ったらいいのか……そんな対応の女性に対して悔しいのと同時に、女性をそうさせてしまう自分が男として情けなくて……。『ありのままの自分』はマイナス要素でしかないんです」