定年を迎えたあと、どんな働き方を選べばいいのだろうか。近畿大学の奥田祥子教授は「定年後の現実を受け入れることができず、『定年後幻想』に陥る人は珍しくない。私が取材したある60代の男性は、役職定年で年収が減り、かつての部下に蔑まれた苦い経験から起業を目指したが、投資詐欺にあってしまった」という――。(第4回)

※本稿は、奥田祥子『男が心配』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

ベンチに座っている落ち込んだアジアの実業家。
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現実を直視できずに陥る「定年後幻想」

仕事や、男としての性、健康面で「生涯現役」にこだわるあまり、定年後に誤算を招くケースが少なくない。急速な高齢化の進行に伴い、60歳を過ぎても働き続けることが可能な環境整備が進んでいる。

2021年4月からは改正高年齢者雇用安定法施行により、70歳までの継続雇用制度(再雇用、勤務延長)の導入、70歳までの定年の引き上げ、定年制の廃止など5つ(※1)のうち、いずれかの高年齢者の就業を確保する措置を取ることが事業主の努力義務となった。定年後の雇用確保は、生きがい創出とともに、社会保障政策の面から重要であり、経済成長を促すうえでも欠かせない。

こうした動向を追い風に、仕事一筋で生きてきた男性たちは、それが男としてのすばらしい人生の証しであるかのように、「生涯現役」を志す。しかしながら、定年まで勤めた同じ会社で継続雇用に順応するのは容易ではなく、転職や起業も決して甘くないのが現実だ。

すなわち、現実を直視できず、理想を追い求める「定年後幻想」が、男性たち自身を追い込んでいるのである。男たちが「定年後幻想」に陥ってしまうのは、どうしてなのか。当事者心理だけでなく、社会環境や人々の意識の変容にも着目して考えてみたい。

(※1)70歳までの高年齢者就業確保措置の努力義務には、このほか70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、70歳まで継続的に、事業主が自ら実施する社会貢献事業、または事業主が委託、出資する団体が行う社会貢献事業に、従事できる制度の導入がある。65歳までの雇用確保(義務)と異なり、就業確保と表現され、事業主が直接雇用しなくともよいことになっている。