「生涯現役」にこだわってしまう“男らしさの呪縛”

男たちが「生涯現役」にこだわる心理的背景には、いくつになっても男として強く元気で活躍し、孤独に陥ってはいけないという固定的な「男らしさ」の呪縛がある。そもそも、定年後の現実は、思い描いた理想通りにいくものではない。

事例でも紹介したように、想定外の問題に直面するなどして頭を抱え、苦境に立たされるケースが少なくないのだ。それにもかかわらず、男としてこうあらねばならないというジェンダー規範と決別できないがゆえに、なおいっそう己を追い込んでしまうのである。定年後の労働については、本章冒頭でも述べた通り、継続雇用制度の対象年齢を70歳までに引き上げることなどが事業主の努力義務となるなど、雇用環境は整いつつある。

現に、厚生労働省の2022年「高年齢者雇用状況等報告」によると、66歳以上働ける制度のある企業は40.7%(対前年比2.4ポイント増)を占め、70歳以上働ける制度のある企業も39.1%(同2.5ポイント増)と、いずれも増加傾向にある。しかし高年齢者の雇用確保が進められる一方で、雇用主側は、定年後の従業員の有効活用と労働生産性の向上という課題を抱える。労働者側も、継続雇用で仕事の質や賃金が下がることで働く意欲が低下し、定年まで長年培ってきた経験や実績が十分に生かせないことへの戸惑いなどの壁にも直面している。

定年後は“生き方のギアチェンジ”が必要

外部労働市場に目を向けても、定年までの職務経験を生かしたシニアの転職は難しく、ましてや起業になると困難を極めるケースが多い。

労働政策研究・研修機構が19年に実施した「60代の雇用・生活調査」によると、働く60~64歳男性の雇用形態は、「正社員」が37.1%に対し、「パート・アルバイト」(13.7%)、「嘱託」(24.0%)、「契約社員」(18.2%)、「派遣労働者」(2.2%)を合わせた非正規雇用労働者は58.1%に上った(図表1)。65~69歳に年齢が上がると、正社員が18.8%に対し、非正規雇用は76.6%と、両者の開きはさらに拡大する。

出所=『男が心配』
出所=『男が心配』より

また、同機構の「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(19年実施)では、フルタイムで働く60~64歳の継続雇用者の年収の平均値は374.7万円だった。

定年後も働き続けるのか、またどのような働き方をするのかは、あくまでも本人が決めることだ。それだけに、待遇の悪化や体の衰えなどマイナス要素と向き合いながら、加齢に抗うことなく、孤独も受け入れ、自ら乗り越えていく覚悟が必要になる。

「生涯現役」にこだわり過ぎると思わぬ誤算を招くことが多いが、定年後の継続雇用で仕事の質や賃金が下がることも、加齢に伴って体が衰えてくることも織り込み済みであれば、無理せず前向きに「現役」を目指すことは何ら問題ない。要は、仕事一筋で出世を目指して全速力で突っ走った定年までの働き方、生き方からの減速のギアチェンジが必要なのである。

「男らしさ」を具現化するため、定年まで長時間労働に耐え、私生活に犠牲を強いられた結果、生活の質を低下させ、健康にまで悪影響が及ぶケースも少なくない。男たちにとって、定年後は「男らしさ」の枷かせを外す絶好の機会でもあるのだ。

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