家事力なら女性にアピールできる

初めて話を聞いたのは、さらに1年前の15年。当時入社4年目の26歳だった。「どんな女性が理想ですか」と尋ねると、沈黙を挟んではにかみながら「まあ、ありのままの自分を受け入れてくれる女性ですかね」と答えた。また、「給与は高くないし、優雅な暮らしをさせてあげることはできない」一方で、「真面目さだけが取り柄です」と控えめにアピールした。

だが、この翌年、職場環境が激変したことで、彼自身、女性との関係において大きな挫折を経験することになる。そうして、18年の語りにある「家事力なら女性にアピールできる」という考えにたどり着くのだ。

加藤さんはさっそく、週末に料理教室に通い始めた。料理教室というと、結婚を控えた女性が料理の基礎を学んだり、既婚女性がさらに腕を磨いたりするイメージが強いかもしれないが、実際には男性の受講者も少なくない。男性の場合は定年退職後の趣味として料理を習うケースが多いものの、中には加藤さんのように、「女性から選ばれる」ために料理教室に通う男性もいる。

「女性の経済力をあてにできる」

家事力を身につけるために一念発起した加藤さんだったが、さすがに通い始めの頃は、女性の中に入っていくのに戸惑いを見せていた。だが、次第に馴染み、楽しむようになっていく様子がありありとわかった。料理そのものへの興味の深まりとともに、同じクラスで受講する同年代の既婚女性の存在もあったようだ。

「大学卒業後、初めてできた女友達なんです。職場が変わって合コンでも自分をアピールできなくなって、相手探しに挫折してからというもの、女性とのコミュニケーションは極力避けてきたのですが、彼女のほうから気さくに話しかけてきてくれて。いろいろと話しているうちに、同年代でメーカーに総合職で入社して、結婚を機に退職したけれど、料理が下手で困って、教室に通うようになったと。特に男性並みに働く独身キャリアウーマンの中には料理をはじめ、家事が苦手な人が多いとか、働く女性の実態を教えてくれたんです。それで、一石二鳥だと、これまた、僕にとっては大きな発見でした」

料理教室に通い出して数カ月後の18年末のインタビューで、そう言い終えると、彼は目を見開いた。

「一石二鳥、というのはどういう意味ですか?」

「僕は経済力を料理を中心とした家事力でカバーして、女性からモテようとしていますけど、家事力を持つことで負い目を感じることなく、女性の経済力を堂々とあてにできるということですから。男性の家事力と女性の経済力の交換とでもいうか……」