なぜカルトや霊感商法の被害が後を絶たないのか。カルト問題に取り組む弁護士の紀藤正樹さんは「社会心理学で著名なチャルディーニ博士の6つの原理を応用している。とりわけ悪質なマインド・コントロールでは、強迫観念と依存心を煽り、健全な思考を奪ってしまう」という――。

※本稿は、紀藤正樹『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)の一部を再編集したものです。

操り人形のようにひもにつながれた男女
写真=iStock.com/SergeyNivens
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マインド・コントロールをされた人はどうなるのか

マインド・コントロールという問題に私が初めてぶつかったのは、1990年に弁護士になった直後でした。大学時代に家庭教師をしていた女の子が統一教会に引っかかってしまったのです。

あんな素直な子をだますなんて、なぜなんだと思いました。統一教会による霊感商法の被害者の救済を担当した経験から、とんでもない団体だということはわかっていましたが、統一教会信者を脱会させる試みは初めてでした。

これをきっかけに私は、マインド・コントロールについて詳細に調べはじめたのです。幸いなことに彼女は、その後なんとか統一教会を脱会してくれました。

霊感商法の問題をあつかったときには知らなかったことも、次第にわかってきました。ウソをつき、だましたり脅したりして金銭を奪う霊感商法は、明らかな不法行為で、ただの悪です。

ところが、マインド・コントロールされた信者の行為は、性格のよい素直な子が心底「よいことだ」と信じ込んでやっている悪なのです。すると「悪いことだからやめなさい」といっても耳を貸しません。

「悪いことはダメだ」という当たり前の説得が通用しない世界がある。このことに私は驚きましたが、驚いてばかりもいられません。

「あなたはそういうけど、もっと突き詰めて考えたら、理論的にはこうなるよ」とか「あなたがいったことは、文鮮明が話したことと矛盾するじゃないか」と、こちらも統一教会について深く勉強し、説得の仕方を試行錯誤しながら工夫していきました。

当時「マインド・コントロール」といってもほとんど誰も理解してくれず、この言葉を使うと奇異に見られたものです。勉強しようにも日本語の参考文献は見あたりませんでした。当時と比べると、多くの人がマインド・コントロールについて一定の理解を示す現在は、まさに隔世の感があります。

カルト被害者を生み出す心理学的手法

アメリカの社会心理学者チャルディーニ博士が著した『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房)という、アメリカでは社会心理学の教科書にもなっている有名な本があります。