有能なセールスマンも使っている
チャルディーニ博士は、このように影響力の武器となる心理的な原理原則を6つにまとめました。
なお博士は、6つの原理の中に「物欲の原理」、つまり人は選択をする際にできるだけ少ない支出で多くを得ようとする、という原理を「当たり前の動機、いうに及ばぬ要因」として含めなかったと述べています。
これ以外にも、実は有能なセールスマンは、同じ本に出てくる「拒否したら譲歩」テクニック(拒否される前提で大きな要求を出し、拒否されたとき譲歩して小さな要求を出せば、受け入れられやすい)や、「知覚のコントラスト」と呼ばれる原理(高価なものを見せた直後に安価なものを見せると、実際以上により安いと感じる)を使っています。
賢明な読者は、もうお気づきですね。
前者は、洋服店に入ると、高価な洋服までは買えないけれど小物をいつも買わされてしまうといった場合に、後者は不動産や自動車のセールスで高いものから客に見せていくと、普通に高いものが安く見えてしまうという手法として、よく使われているテクニックです。
カルト団体の勧誘とテレビCMの類似点
テレビCMでは「いまから10分間だけ電話受付」「限定300セット」、インターネット通販サイトでは「在庫一掃大幅値下げ」「あと13個!」「タイムセールは深夜0時まで」「ここだけ・いまだけの訳あり商品」といった惹句が氾濫しています。
いずれも希少性の原理です。「箱つぶれで店頭販売できません。訳あり商品が、あと13個!」なんていわれると、なくても困らない商品を、売り切れないうちに買おうとついつい思いがちですが、世の中そう甘くありません。業者がわざと箱をつぶしたのかもしれません。
普通の会社でも、そのくらいやります。マインド・コントロールを仕掛ける霊能師やカルト的な団体が、もっと巧妙に心理誘導テクニックを駆使するのは当然でしょう。そのマニュアルが作成されていることも珍しくありません。
あなたに近づく親切そうな人が、カルト的な団体や自己啓発グループの一員とは、最初はまったく気づかないはずです。
彼らが霊感商法で何かを売りつけるときは、インターネット業者と同じように希少性の原理を使います。
たとえば、あまり誘われるので道場と呼ばれる場所に顔を出してみたら、「いま、たまたま有名な××先生が見えている。10分だけなら話を聞いてくれるそうです。今日を逃すと、次はいついらっしゃるかわからない。ご病気のこと、ちょっと相談してみたらいかがですか」と霊能師に引き合わせる。これが希少性の原理です。
「6つの原理」が効く条件
もっとも、カルト的な集団のマインド・コントロールでよく使われる影響力の武器は、すべての人に100%適用できるとは限りません。10人中7~8人は同じ方法でいけるというように、有効なことは確かですが、違うやり方をしたほうが効果的な人もいます。