安倍晋三元首相は生前、さまざまな批判にさらされた。本当はどんな人物だったのか。安倍晋三氏、安倍昭恵氏の取材を重ねてきたライターの梶原麻衣子さんは「安倍元総理は、夫婦関係や人付き合いについては極めてフラットで、むしろリベラルだった」という――。
2019年4月13日、東京都内の新宿御苑で開かれた「桜を見る会」での安倍晋三首相(左・当時)と昭恵夫人。この会には約1万8000人のゲストが招待された。
写真=EPA/時事通信フォト
2019年4月13日、東京都内の新宿御苑で開かれた「桜を見る会」での安倍晋三首相(左・当時)と昭恵夫人。この会には約1万8000人のゲストが招待された。

「晋ちゃん、晋ちゃん」と声をかけた

「行く先々で、初めてお会いした方々が『応援しています』『昭恵さん、頑張って』と声をかけてくださる。そのたびに、『夫は本当に多くの方に支えていただいていたんだな』と思うんです。私も、たくさんのご縁に感謝しながら日々を過ごしています」

こんな一言からも、安倍昭恵さんの夫・安倍晋三元総理に対する思いや姿勢が伝わってくる。声を掛けられているのは昭恵さん自身だが、それは「夫への応援」なのだ、ととらえているのだ。

それだけに、安倍元総理が銃撃されたと聞いた際、真っ先に思い浮かんだのは昭恵さんのことだった。しばらくして、搬送先の病院に向かう昭恵さんの気丈な姿がテレビに映った。昭恵さんが病院に到着して間もなく、安倍元総理の死亡が確認されたと報じられている。

医療関係者のコメントを見るに、家族が到着するのを待って、「蘇生処置を止める」ことを確認した、ということなのだろう。報道によれば、昭恵さんは安倍元総理に「晋ちゃん、晋ちゃん」と声をかけたというが、返事はないままだった。昭恵さんの心中はいかばかりだったか、想像を絶する。

晋三さんとよく訪れた富士山の別荘

冒頭の昭恵さんの言葉は、雑誌『プレジデント』誌2021年1月1日号に掲載された〈日本再発見! 安倍昭恵さんと神々の旅 富士山信仰編〉と題する記事からの引用だ。筆者はこの取材に同行し、昭恵さんと早朝から夜までご一緒し、富士山周辺の聖地を巡礼した。

取材は2020年11月下旬に行われた。安倍総理が退陣を表明した2カ月後のことで、コロナ流行の波と波の間の、つかの間の収束期のことだった。「コロナの終息を祈る」という意味もあり、冨士講と言われる富士山信仰の拠点や、普段は立ち入りが禁じられている「人穴」という噴火でできた溶岩洞穴などを巡った。

「人穴」は、戦国乱世以来、多くの人たちがこの地で修業をし、祈りをささげてきた場所だ。昭恵さんも、足場の悪い洞穴の中を進み、神妙な面持ちで祈りをささげていたのが印象的だった。最後に取材の感想を聞くと、「心が祓われる、洗われる気持ちになりました。この感覚はうまく言葉にできません」と、晴れやかな表情で語っていた。

富士のある山梨県は都内の自宅、夫の選挙区である山口に続く「サードプレイス」だという。夫ともよく訪れた別荘があり、「総理夫人・政治家の妻」としての役割から、ほんのひと時、離れられる場所だったという。仕事の場でもいつも自然体でいる昭恵さんだが、それでもリフレッシュの場は必要だ。