「不動心」と書かれた色紙

外遊や選挙でも、総理夫人の働きは欠かせない。7年8カ月も続いたそんな多忙な日々に一息ついたころの取材で、「少しはほっとしてますか? 安倍さんが総理でなくなると、昭恵さんの環境も、いろいろ変わるものなのですか」と尋ねたところ、昭恵さんはこう述べていた。

「自宅の前にはその後もポリボックス(警察官の詰め所)が置かれるんですが、主人のSPの数も減るし、私には警護がつかなくなるんですよ。自由になったので、私は自分で車を運転して出かけたりしています」

アクティブだなぁと驚いたのを覚えている。「危ないからやめろって、安倍さんから言われないんですか」と尋ねたが、「ウフフ」と笑う昭恵さんの反応から、「言われても乗って行っちゃうんだろうな」と感じたものだ。

取材地だった富士山の小御嶽神社に寄った際には、こんなこともあった。安倍元総理の手になる「不動心」と書かれた色紙を、小佐野正史宮司夫妻が「家に飾っていたのを持ってきました」と用意してくださっていたのだ。それを見た昭恵さんは「こんな立派な額に入れて大事にしていただいて、主人も喜びます。……色紙をもってみんなで写真を撮りましょう。夫にも送っておきますね」とその場で画像をメールで送信していた。

富士山
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです

「総理をやめてから、ようやくスマホにして、私に自慢してくる」

「主人は総理をやめてから、ようやくスマホになったんですよ。だから機能が珍しいみたいで、私に自慢してくる。『私はあなたよりもずっと前からスマホなんですけど』って(笑)」とも。ほほえましい、どこにでもいる夫婦のやり取りの一端が垣間見えた。

別のある時には、昭恵さんを囲む席に、安倍総理から電話があった。夜の9時ぐらいだっただろうか。「どこにいるの? 今日、これから大雨が降るらしいよ。遅くなると危ないよ」という趣旨の、ちょっと気の緩んだ、しかし早口の声が漏れ聞こえてきたこともある。

昭恵さんは「自分らしい生き方」を変えず、夫の安倍元総理も、そんな昭恵さんの姿勢を咎めることはなかった。むしろ、ちょっとうらやましく思っていたのかもしれない。昭恵さんが語る「夫の話」からは、そうした二人の関係が伝わってきた。