3月11日に起きた東日本大震災。前代未聞の非常事態に対して、国政は最優先事項であるはずの復旧復興よりも、菅直人政権への不信任決議という「政局」へと舵を向けていく。
そんな中、29歳で最年少の衆院議員である著者の松岡広隆は、不信任案に賛成票を投じようとする小沢一郎元代表のグループと、党執行部との間で板ばさみにあう。松岡にとって小沢氏は、自らを国政に導いた恩師だ。松岡はこのときの心境を、「大義をとるか、恩義をとるか。寝ても覚めても、頭の中を行き交うのはそのことばかり」
と綴っている。最終的に、小沢派の議員に「育ててもらった人を足蹴にし、その顔に泥を塗るのか」とののしられながら、不信任案に反対票を投じた。
「二世でもない一回生議員が、どういう思いで不信任案決議に臨んだのか、伝えたかったんです。ここまで書いて大丈夫かとよく聞かれますけどね(笑)」
兵庫県生まれの松岡は、高校卒業後フリーターをしていたが、国会議事堂を訪れ、ふと「ここで働きたい」と思い立ち国会議員を志す。立命館大学、関西電力を経て2009年の総選挙で当選。本書には松岡の紆余曲折の半生と、苦労の多い議員生活が率直に著されている。
「議員になったらいろんなお誘いがあるだろうと思っていたんですが、全くなかった。比例単独で自分の選挙を戦ったこともない議員なんて、誰も相手にしないんです。毎日一人で吉野家に行ったりしました。たまに誰かが誘ってくれても、ほかの議員が『なんでこんなやつ誘うんだ』って言うんですよ、目の前で」
初当選から2年。一人では何もできないと地道に人脈を広げてきた。今は主にエネルギー問題と自殺対策に取り組んでいる。本の評判も上々だ。
「先輩議員から『面白かった』と電話をいただいたりしました。若い人が手に取りやすい本になるよう心がけました」
取材後、議員会館の玄関まで見送ってくれた。気配りを忘れない政治家である。