「2011年は日本映画の底が抜けた年」と映画監督の松江哲明は言い切った。その言葉が示すのは、日本映画の裾野を支えてきた自主映画の制作が立ち行かなくなった状況だ。震災以降、主戦場であるレイトショーの動員は低迷し、一部の業者は明らかに採算が合わない発注を繰り返すようになった。閉塞感の中、落命する関係者も現れた。
「限界まで削られた予算のなかで仕事を続けようとすると、疲れだけが残る。よそで働きながら映画を撮る人も増えていますが、現状のシステムではプロを名乗れる作家は育ちません。僕は『これ以上は続けられない、もうムリだ』と音を上げた」
今こそ、金の問題と向き合わなければ自主映画の明日はない。にもかかわらず、業界ではギャラの話が忌み嫌われるような「好きなものを撮るのだから儲からなくて当然」という風潮が連綿と続いてる。そこで松江が「もう『なんとなく』じゃ食べていけない」と強烈な危機感をにじませて著したのが本書だ。
昨年、松江は音楽やTシャツなど、映画に比べて低い敷居でモノを作る自主制作業者を手本に、DVD『DV』を制作した。書籍では、その過程と収支明細を赤裸々に公表している。
「今は、隠さないことが大事なんじゃないかと。オープンにすることで検証ができますから。だからこの本は成功例ではなく、一例として読んでほしい」
年が明けて2012年。「もうムリ」の心境から脱したのか問うと、答えは「まだ」だった。
「ただ、ひとつ出口かなと思えたことがありました。上映会で僕の映画を見て、その3カ月後に『影響受けて自分もドキュメンタリー映画の撮影を始めたんです』と言ってくれた人がいたんです。これでまだ自分も映画を続けていけるな、という気持ちになった。作品を見た人に自分もやってみたいと火をつける。今はそのサイクルをつくることで出口に向かっていけるんじゃないかと考えています」
松江は今日もカメラを回す。全ては映画を続けるために。