※本稿は、八木田和弘『「2つの体内時計」の秘密』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
体内時計を乱しやすい「シフトワーカー」
歴史をさかのぼると、私たちの祖先は地球の自転周期に合わせ、太陽が昇ると同時に活動を開始して、太陽が沈むとともに活動が鈍っていき、やがて眠りにつくという生活が一般的でした。
ところが産業革命以来、工業が勃興して社会環境が一変すると、2交替や3交替制で昼夜関係なく働く工場勤務者が生まれ、不規則な生活を送る人が増えてきました。いわゆる「シフトワーカー」の登場です。
また、警察、消防などの公務員、医療従事者、交通機関の乗務員など、生活に欠かせないサービスを提供する、いわゆるエッセンシャルワーカーもまた、昼夜を分かたず働くことが多い人たちです。近年では24時間営業のコンビニエンスストアやスーパーも全国に展開され、シフトワーカーは増える一方です。こうした人たちは現代社会に欠かせない重要な仕事を担う一方で、往々にして体内時計を乱してしまい、睡眠・覚醒障害をはじめとする「概日リズム障害」を起こしがちです。
コロナ禍で朝起きられない人が増加中
さらに近年になって、概日リズム障害はますます増えてきました。その原因として、経済や社会のグローバル化が挙げられます。グローバル化によって、今では世界の各地と結んでリモート会議をおこなったり、リアルタイムで情報が得られたりするようになりました。
それは喜ばしいことでもある半面、仕事相手が時差のある国の場合、昼夜に関係なく業務をしなければなりません。そのおかげで、企業や業種によっては深夜や明け方に会議が入ることもあるといいます。週に1回程度ならともかく、そんな生活が毎日続いたら体調を崩してしまうのも当然でしょう。
体内時計が乱れる原因は、シフトワークなど不規則な働き方のほかにもあります。それは、世界と瞬時につながることができるスマートフォンの普及です。これは、大人だけでなく、成長期の子どもたちに大きな影響が及んでいます。夜遅くまでスマホを使い続けることで、睡眠リズムを乱す中高生が増加していることは、どなたもご存じでしょう。
さらに、若い人たちの体内時計の乱れは、今、無視できないほどの大きな課題となっています。
「概日リズム睡眠覚醒障害」という体内時計の乱れと関連する睡眠障害があります。これは、朝しんどくて起きることができず、仕事や学校に行けないといった症状が特徴的なのですが、中高生から大学生くらいの若い人に多く見られることが知られています。しかも、コロナ禍でその数は増えているという指摘もあり、注目していかなければなりません。