※本稿は、八木田和弘『「2つの体内時計」の秘密』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
新生児は16時間眠るが、高齢者はその半分以下で十分
体内時計と深いかかわりがあるのは、やはり何といっても睡眠です。概日リズム障害の典型的な症状は睡眠障害です。では、どれだけ睡眠をとればよいのでしょうか。
最適な睡眠時間は人によってかなり違いがありますし、年齢を重ねるに従って適正な睡眠時間は変わっていきます。
一般的に、子どもは必要とする睡眠時間が長く、新生児は約16時間、幼児期は10時間以上、学童期は9時間程度、中高校生で8時間以上とされています。成人の適正な睡眠時間は7時間半程度といわれていますが、個人差がかなりあります。
また、65歳以上の高齢者になると、6~7時間程度の睡眠時間で十分な人が増えてきます。そのため、高齢者で「眠れない」という人の多くは、実は十分に睡眠をとっていると専門医は言います。
例えば、高齢者で夜9時に寝る人は、未明の3時過ぎに目が覚めて当然ということになります。外は真っ暗で夜中なのに目が冴えてもう眠れない。でも、当然ですよね。十分な睡眠時間をとっているのでもう寝る必要がないために眠れないのです。
眠れなくても無理に睡眠薬を飲む必要はない
こういう人に睡眠薬を投与するケースは、今でもあると思います。しかし、睡眠薬の処方をお願いする前に、眠れないと感じる理由がわかれば対応は違ってくるでしょう。安易に睡眠薬に頼ってしまうことで、むしろ、睡眠薬服用によって転倒による骨折やせん妄などが起きやすくなり、危険な事故などのリスクのほうが、眠れるという利益を上回ることが多くなります。
高齢者の睡眠時間が少なくなるのは、代謝が下がっているからだといわれています。基礎代謝は大きなエネルギーを使うので、それが落ちてくると、肉体的な疲れが減ってきます。だから、そんなに寝る必要はないということになるわけです。
ただ、生理的に必要とする睡眠時間が短くなっているとか、年齢のせいで皆さん睡眠が浅くなりますと言われても納得がいかない方も多いかもしれません。
高齢者は睡眠ホルモンのメラトニンの分泌が低下しがちです。メラトニンは松果体という脳のなかの小さな器官でつくられ分泌されるホルモンですが、夜間にしか分泌されないという特徴があります。しかも、夜に明るい光が当たると分泌が低下します。
しかし、一方で、昼間に明るい光を浴びておくと、夜間のメラトニンの分泌が高まることもわかっています。昼間はできるだけ活動し、外にも出て、夜にはほどよい体の疲れとメラトニンの分泌で、いい眠りを誘うことを心がけてみてください。