スマホの過剰な使用は眼の病気を引き起こすリスクがある。では一体、スマホとどのように付き合っていけばいいのか。鳥取大学医学部附属病院眼科助教の唐下千寿氏は「30分スマホを使ったら必ず5分休憩することだ」という——。

※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 9杯目』の一部を再編集したものです。

スマートフォンを触る子ども
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです

若者に急増する内斜視「ものを見るときに片目をつむる人は注意」

今年7月に文部科学省が公表した2020年度学校保健統計調査の結果によると、裸眼視力が1.0未満の割合が小学生で37.52%、中学生58.29%で過去最多を更新した。

子どもの視力は確実に低下している。

「ここ5年ほどで、急性内斜視のお子さんが多くなったと実感しています」と話すのは、鳥取大学医学部附属病院の眼科で弱視や斜視、小児眼科を担当する唐下千寿助教だ。

内斜視とは、左右の視線がそろわず、左右どちらか片方の眼が内側に入る状態を指す。急に眼が内側に入ると、一つに見えていたものが二つに見えるようになる。

近年は、小児から30歳程度までの若者世代で内斜視が増加しているという。

「内斜視の原因はいくつかあり、生まれつきのもの(先天性)、遠視が原因で起こるもの(調節性)、脳の疾患や近視などが原因で大人になってから起こるものなどがあります。これらとは異なる内斜視が、近年若者世代で増加しています」

急性内斜視が増加した、外的要因はまだ不明だ。しかし、スマートフォンやタブレット端末、携帯ゲーム機の過剰使用が影響している可能性が考えられている。

小児は、視力が発達する感受性期でもある。この時期に長時間スマホを見ることは発達にも影響を及ぼし、急性内斜視や近視などの眼の疾患を発症する可能性もある。

内斜視の初期段階は、本人は「ちょっと見えづらい」くらいで不自由感が少なく、周囲の大人も斜視に気づかない場合もあるという。

「いつもとちょっと視線が違うときがある、物を見るときにウインクするように片目をつむるなどが内斜視の注意信号です。気付いたら眼科を受診しましょう」

急性内斜視の治療は、比較的軽い場合は斜視の角度に合わせた斜視用眼鏡で調整。より症状が進むと手術となる。眼を動かす筋肉(外眼筋)の位置を変えて、眼球の引っ張り具合のバランスを調整し、目の位置を矯正するのだ。

筋肉の数は限られており、繰り返し何度も手術することはできない。そして、手術を行なったとしても、生活習慣を見直さないかぎり再発リスクは伴う。

「スマホやタブレット(端末)の利用時間は、小学生以下は一日1時間以内、中学生は2時間以内というのを一つの目安にしています。保育園の子どもに2時間も3時間もスマホを持たせるのは絶対に良くない。スマホやタブレットとの距離は30センチ以上離す。そして30分使ったら5分以上休憩」

とはいえ、いきなりスマホの使用時間を制限すると、子どもは反発するだろう。子どもがスマホを見ている間に仕事や家事をこなす親にとっても大問題だ。

「スマホをテレビなど大きな画面に映すことが出来ますよね。大きな画面で1メートル以上離れて観る。それだけでも全然違います。ただ時間制限は必要です。まずはテレビ画面で観る。その後、徐々に時間を減らしていく」

適切な使用時間や方法を大人が指導することが大切だと唐下は言う。

「現代社会においてスマホを手放すのは無理な話。うまく付き合っていくことが大事なんです」