ドライアイを招く3つの“コン”

前出の井上は、現代社会は眼にとっては、良くない環境だと指摘する。

「コンピューターとエアコンとコンタクトレンズ、生活に欠かせない、この3つの“コン”がドライアイを助長する。テレビを観るとき、本を読むとき眼の方向はまっすぐなんです。ところが、コンピューター画面を見るときは上目づかいになりがち。そして、瞬きの回数も減る。コンピュータでの作業はドライアイになりやすい」

ドライアイとは涙液の減少による目の乾燥のことだ。目の痛み、かゆみ、充血などの症状があり、視力の低下をもたらすこともある。

このドライアイという言葉が、一つの鍵となったと井上は考えている。

「例えば、メタボという言葉がありますよね。太っている方に対して、子どもたちでも、あいつメタボだねという使い方をします。メタボはメタボリックシンドロームの略。肥満・高血糖・高中性脂肪血症・高コレステロール血症・高血圧の危険因子が重なった状態のことです。

ただ、メタボリックという英語は、“代謝の”という形容詞です。それがちょっと太ったという意味になった。メタボという言葉で肥満が生活習慣病のもとという啓蒙になったんです。同じように、ドライアイは以前は乾性角結膜炎と言っていた。ものものしい名前ですね。ドライアイという言葉を使うことで分かりやすくなった」

ドライアイには対策がある。

「点眼。目薬を差す。眼に限らず、病気は何かが原因となって、すぐに発症するのではない。血糖値が高いと痛風の症状がでます。なにか一つが原因で血糖値が上がるのではない。

生活習慣病ですから、日々の生活のさぼったつけがずっと後になって出て来る。それと同じように普段の眼の環境を良くすることが大切なんです」

“体の窓”である眼の健康はQOLに直結する

井上は眼に対する健康意識を持ってもらうため、「アイフレイル」という言葉を多くの人に知ってほしいと考えている。

フレイルとは、加齢などにより身体的・認知的機能の低下がみられる状態を指す。昨今の高齢化社会において、健康で長生きするため、適度な運動やバランスの良い食事、人との交流がフレイル予防につながると、医療や介護の現場から、そして行政でも盛んに呼びかけている。

「フレイルという言葉は、シェイクスピア作の悲劇『ハムレット』の科白にも出てきます。“Frailty, thy name is woman”(弱き者よ、汝の名は女なり)。“Frailty”は直訳すれば、心が弱いになるでしょうか。日本語だと虚弱と訳されることが多かった。それを医療現場で使うようになったんです。」

年をとってくると眼の調整力が衰える。これが老視、いわゆる老眼である。

「年を取れば老眼になるのは仕方がない。そして、ドライアイもだんだん悪くなる。乾くのではなく逆に涙目のようになってしまうこともあります。分泌が増えるのではないんです。眼から鼻に流れていく涙が、通路で詰まってしまい、溜まってしまう。流涙という状態になるんです」

眼のフレイル(=アイフレイル)を意識することで、症状が進むスピードを緩めたり、機能の維持をしていこうと井上たちは働きかけている。

「人が外から得る情報の80パーセントは視覚からなんです。白内障が進行して見えにくくなると、認知症、老人性のうつも進行します。“ロコモティブシンドローム(ロコモ)”という言葉も最近よく使われています。

鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 9杯目』
鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 9杯目』

運動器の障害のために移動機能が低下した状態のことです。眼の機能低下はロコモとも繋がっています。眼が見えにくくなると、転ぶなどの不慮のケガが増える」

QOL(クオリティ・オブ・ライフ)という言葉がある。医療の世界では、患者さんが治療や療養をしながらも、その人らしく生きるために「生活の質」「人生の質」をあげようという考えのもと、使われる言葉だ。井上はアイフレイルを減らすことは、このQOLを高めるために欠かせないと話す。

「“眼は心の窓”というが、まさにその通りで、さらに“眼は体の窓”でもある。クオリティ・オブ・ビジョンがクオリティ・オブ・ライフを支えるんです」

年をとっても読書やスポーツ、生活を楽しむために、眼の健康を意識することは大切なのだ。

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