今年8月以降、「違法酒」で70人が死亡している
「手で触れるな」の赤いマークにびっくりした。モスクワ都心の「赤の広場」に面する高級スーパーの売り場でのこと。「世界最悪の大量殺戮兵器」との異名を誇る歩兵用自動小銃「カラシニコフ」をかたどったガラスビンに、ウオッカが入っている。
価格は1万2500ルーブル(日本円で約2万5000円)と高価だ。カラシニコフといえば、使いやすさと耐久性に優れており、世界中に普及した銃である。
そこから約2年が経過した2021年、カラシニコフではなくアルコールが凶器となった事件がロシア各地で起きている。読売新聞によると、違法酒による中毒症状で「今年8月以降、少なくとも70人が死亡した」という(読売新聞オンライン11月22日配信)。
いったい、何が起こっているのか。10月7日、「密造ウオッカ」により64人が中毒症状を起こし、35人もの死者が出た事件を見ていきたい。
燃料に使われるメタノールによる中毒症状
事件現場は、ウラル山脈の南端に広がるオレンブルグ州内の近接する6つの村だ。カザフスタンとの国境にかなり近いところに位置する。
地元当局の発表によれば、被害者の体内からメタノール(別名はメチルアルコール)が検出された。その濃度は致死量の4倍から5倍ほどに達していた。
ロシア国立医療センターのエヴゲーニー・クルピーツキー副所長の診断では、深刻な病状だったらしい。
「患者は失神(完全な意識消失)し、瞳孔は開き、心肺が停止していました。典型的な中毒症状でしたが、アルコール成分としてメタノールが使用されたことは間違いありません。メタノールは体内でホルムアルデヒドに代謝され、ギ酸も生成します。これらの複合化学物質が、身体に重大な障害を引き起こしたのです」(「5TV」公式ウェブサイト10月10日配信)
メタノールがウオッカに混入されるケースはロシア国内で頻発し、大きな事件を繰り返してきた。メタノールは「燃料アルコール」として簡単に入手できる。言うまでもなく、人体に有害な化学物質だ。