味覚だけでは正規品か違法品か見分けるのは難しい
本来のウオッカは、ほとんどが小麦を原材料としている。材料に含まれるでんぷんを煮立てて発酵させてから、とろみをつけて蒸留し、純度の高いエタノールを得る。
複雑な工程を経て精製されるので、生産コストが高くつく。ウオッカを製造するには地元当局の許可が必要で、工場は定期的な立ち入り検査を受けなければならない。
メタノールで代用すれば、コストが安く、製造も容易だ。さらに密売となれば、ウオッカの価格の63%を占める酒税を免れることができる。
消費者がウオッカの成分としてエタノールとメタノールのどちらが使用されているのか、すぐに味覚で嗅ぎ分けるのは容易ではない。ウオッカはもともと無味無臭であり、同じような酩酊状態が起こる。
ただメタノールを飲むと、翌朝には激しい中毒症状が出て、頭痛や腹痛、目の異常を訴える。単なる二日酔いではないことに気づくことになる。
困窮を極めるロシア地方部の住民たち
主要チャンネル「ロシア第1チャンネル」では、被害男性の一人が表情をこわばらせながら、インタビューに答えていた。
「ウオッカを飲んでから半日後に気絶し、気づいたら病院に収容されていました。10日間の入院中も、40人もの中毒者が続々と搬送されてきました。院内は戦場のようでした。
村に商店は一つしかなく、最近、ウオッカが激安で販売されているという話が飛び交いました。ウオッカ1本あたり、120ルーブル(約240円)。通常価格の3分の1ほどです。友人の誕生日を前に、私はこの店でウオッカを買ったのです」(「ロシア第1チャンネル」10月19日放送)
オレンブルグ州政府の発表では、州に住む人の平均月給は3万3000ルーブル(約6万6000円)。これはモスクワ市民の平均の約半分である。
州内の求人広告をネットで見ると、月給1万5000ルーブル(約3万円)の数字で埋め尽くされている。困窮を極める住民たちが、少しでも安いウオッカを求めるのも納得できる。
ロシアでは全住民の40%ほどがオレンブルグ州のような貧困状態にあると報じられている。かつて、私はそういった貧困地域を訪ね歩いたことがある。住人は食料を求めて森林に入ったり、川魚を捕るなどして自給自足の生活を強いられていた。ただ、皆一様に酒好きなのは変わらない。ロシアの寒く、長い夜を過ごすのにウオッカは欠かせないのだ。