ノイズとシグナルを見分ける力が必要

みずほFG社長 塚本隆史
つかもと・たかし●京都大学法学部卒業後、第一勧業銀行入行(現みずほFG)。2009年4月より現職。大学時代は、杉本和行前財務省事務次官とクラスメートで、「ずっと一緒に遊んでました」。

銀行の人事評価といえば「減点主義」とのイメージを持つ方が多いかもしれません。今の時代となっては、それは全くの誤解なのです。そもそも銀行の特性のひとつとして、定型的な大量の事務処理や決済をしたり、お客さまの大切なお金を預かり、貸し出すといった業務があります。この部分については、厳格なルールが定まれており、ミスは許されません。それらがややもすると硬直的な減点主義のイメージに結び付けられる側面もあるのでしょう。

現在の人事評価については相当程度、加点主義の評価軸に変わってきています。私どもは商業銀行として安定した信頼される経営が求められる一方、グローバル化の波のもと世界の列強と伍して戦い、新規分野にも出ていかなければいけません。昔のような減点主義では、過酷な競争に勝てるわけがないのです。時代が大きく変革していく中で、いかに機敏に柔軟に対応していくかが、組織として極めて重要です。

リーマンショック後の世界経済ですが、その枠組みに大きなパラダイムシフトが起きています。例えば政府と市場の関係、あるいは先進国と新興国の関係でいえば、従来は、先進国の影響力が圧倒的に大きく、アメリカの個人消費を中心としたものが世界経済のエンジンとなっていました。

また中国、インドは、成長率こそ著しいものの実際の規模は大したことないといわれていましたが、そうともいい切れなくなってきた。国際収支や資本の移動の問題が、従来の欧米中心の図柄から、相当程度変わってきていて、われわれを取り巻く環境は、未曽有のゾーンに突入していることは間違いありません。

こうした変革をきちんとキャッチし、従来から多少の揺らぎがあっても持続するものと、本当に変わっていくものとを見分けなければいけない。ノイズとシグナルを見分ける力が必要です。ノイズとは、いろんな事象が起きても実は本質はあまり変わらない雑音のこと、シグナルとは、本当に大きなトレンドが変わっていく兆しのことです。