短期間での人事評価はあてにならない

東海旅客鉄道会長 葛西敬之
かさい・よしゆき●1940年、東京都生まれ。63年、東京大学法学部卒業。同年、日本国有鉄道入社。69年、米ウィスコンシン大学大学院経済学修士号取得。87年、東海旅客鉄道取締役に。95年、社長。2004年より現職。

人の能力を見るうえで、現在よく使われる人事評価方法、つまり自己分析をさせて目標を設定し、その達成度を上司が評価するという方法はほとんど意味がないと思いますね。もっとも大切なのは、いろいろな人が長い期間にわたって評価したものを集約して判断することでしょう。

そもそも自分のことを自身でわかる人はいません。自己評価や自己目標を科学的、かつ分析的にやっているつもりでも、自分はすべてが人並みだと評価する人もいるし、同じような状態にありながら自分を抜群だと評価する人もおり、人によってものさしが違います。評価する上司も癖が強かったり人によって異なりますから、ものさしが固定しておらず常に客観的だとは限らない。だから長い時間をかけてたくさんの人がその人の仕事ぶりを見続け、その結果、多くの人が持った印象が一番適正な評価なのです。特によくないのが、人の評価を拙速に判断し、それさえもすぐに変えることです。

リーダーになる人間は組織の中で時間をかけて育てていくものですが、リーダーの条件には大きくわけて3つあると思います。まず第1はクリエート(創造)する企画・立案能力です。着想や思索を重ね、そのうえで判断する能力のことですが、これには自由な思考や発想、柔軟な姿勢と想像力に富んでいることが必要です。仕事そのものよりも、仕事をとりまく状況に対する大局観を持ち、それに基づき会社の座標を決めて長期展望の中に方向性を示せる能力のことです。

第2はスキーム(計画)する着想・方向性決定能力で、参謀の能力といってもいいでしょう。進むべき方向性が決まったときに、自分たちの持つ資源や戦力を正しく評価し、課題を見つけて調査、分析する能力です。そのデータを基にプランをつくり上げ、社内各部署との調整をはかり、会社の行動計画に盛るといった参謀の役割です。