システム導入より整理整頓を主張

日本IBM社長 橋本孝之
はしもと・たかゆき●1954年、愛知県生まれ。78年名古屋大学工学部応用物理学科卒業、日本IBM入社。90年米国IBMコーポレイション出向、98年ゼネラル・ビジネス事業部長。2000年取締役、03年常務、07年専務、09年より現職。

入社2年目、岐阜で営業を担当していたときのことです。ある中堅企業に飛び込んでみたところ、1週間後の役員会でコンピュータシステムの自社導入が決議されることを知りました。担当者はこういいました。

「IBMは憧れのメーカーであるし、IBMの営業マンを見たのも生まれて初めてだ。なにかの縁だから、2週間以内に導入のメリットを証明してくれたら検討する」

徹夜で提案書をしたため、あらためて持ち込んだところ、見事に採用されました。自分の仕事を認めてもらえた。初めて、「勝った」という実感を得たのがこのときです。それからは、このお客様がほかのお客様を紹介してくれるようになり、どんどん仕事が広がっていった。営業としていいスタートを切ることができました。

でも、これで満足していたら、私の成長は止まっていましたね。私はこれまでの仕事のやり方にマンネリを感じ、次の成長のために目標を立て始めました。5回の訪問で決めていた案件ならば、次からは3回で決められないか。もっといい提案の方法はないか。効率的に新規顧客を獲得できないか。そういう工夫を重ねるわけです。

私は競合他社の有力ユーザーのもとに何度もお邪魔しました。どんなに粘っても、絶対にIBMにはひっくり返らないというお客様です。しかし、最初から買わないということがわかっていますから、相手も気を許して話をしてくれます。「競合のベンダーはあるユーザーとこんなトラブルを起こしている」といったユーザーならではの悩みや課題、ベンダーに直接言いづらい要望など、取引先からは聞けないような情報が手に入る。それを次の顧客開拓につなげるんです。

工夫の仕方はいくらでもある。これが感性なんです。感性を磨く努力を怠ると成長しません。