慢性痛対策議員連盟の野田聖子会長も隣席していましたが、「私も知りませんでした」とおっしゃっていました。厚生労働関連のトップの方々でも知らないのですから、いわんや一般の人たちに正しい情報が伝わるはずもありません。いまだに誤解が続いているのが今の日本の痛み治療の現状です。

ごくたまに起こる「急性一過性」のギックリ腰も、いつも何となく腰痛がある人の「慢性腰痛の一過性増悪」のギックリ腰も、どちらもギックリ腰への対処は極めて重要です。複雑にこじれた慢性の腰痛への道を水際で食い止めたいからです。長すぎる安静時間はNGです。

ギックリ腰からの回復と予防のためには

絶対安静の後は、少しずつ激痛が走らない程度にストレッチを始めます。ギックリ腰には「マッケンジー体操」が効果的です。腹ばいになって腕を伸ばし上体を反らすストレッチで、「現代人は椅子に座っているが多く、前屈の姿勢によって腰を痛めている」ので、「後屈の姿勢をとるストレッチで、固まった筋肉を柔らかくする」ものです。

寝る時の姿勢は、仰向けではなく横向きで、軽く足を曲げてエビのように丸まって寝るのが腰への負担が少ないと言われています。

どんな人がギックリ腰になりやすいか、それは今でも解明されていません。朝、あわただしくシャワーを浴びているとき、立ったままギックリ腰になり動けなくなった事例もよくあります。

運動の有無や体型、筋肉量、性別さまざまな人がなりますが、高齢者よりも働き盛りの年齢が多い傾向があります。また再発するとクセになりやすい傾向もあり、1回目の発症で徹底的に治すことが大切です。経験上、何事も慌てないこともお勧めします。

ギックリ腰の予防にはオーストラリアで始まった「ノーリフト運動」も効果的です。重いものを持たないように気をつけて、腰痛の発生を防ぐことを推奨しています。

人間は移動できればいいという考えもありますが、自分の筋肉を増やすことは長い人生、ギックリ腰予防だけではなくいろいろな意味で大切です。ただ、今は筋力アップをさせる器具も販売されていますが、筋肉がアンバランスになってしまうので頼りすぎには注意が必要だと思います。

次回は、腰痛編第2回、長引く慢性の腰痛の真の原因について解説します。

(詳しく知りたい方はこちら)
・慢性痛に関する医療者(患者・家族)向けYouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」(毎週水曜日に更新)
第29回:慢性痛と検査
*MRIから腰部脊柱管狭窄症を指摘され、それが腰痛の原因だ、と説明される患者さんがいます。慢性痛における画像診断の位置づけについてお話ししています。
第57回:慢性痛講座 神経痛概論
第58回:神経痛概論② 神経痛の診断基準ほか
第59回: 神経痛各論 坐骨神経痛ほか
*腰痛の原因として、坐骨神経痛や腰部脊柱管狭窄症という病名をつけられる人が結構います。そのような、「神経痛」の診断がしっかり行われていないことについて、指摘しています。
・慢性痛についての総合的情報サイト「&慢性痛 知っておきたい慢性痛のホント
*私が一般の方向けに総合監修しています。動画「あるペインの少女クララ」は必見です。

(注1)本稿での解説は、世界最高峰の痛みの研究組織、米国ワシントン州立ワシントン大学集学的痛み治療センターでの5年間の留学時代に習得し、日本帰国後に臨床に応用し多くの症例を積み重ねたうえで多少改変した、痛みの専門医として有効性が高いと感じる個人的見解、私論であります。意見には個人差がありますので、あくまでも主治医の先生と相談のうえ、どの治療を選択するかは自己責任としてくださいますよう、お願い申し上げます。
(注2)私の在籍する横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科では、現在、神奈川県内の患者さんのみ受け付けています。全国各地からのお問い合わせは「慢性の痛み政策ホームページ」の全国の▼集学的痛みセンターの一覧をご参照ください
(注3)厚生労働省「からだの痛み相談支援事業」の電話相談窓口は▼こちらです

(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)
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