耐え難い痛みを訴えても、毎回痛み止めを処方されるだけ……それはなぜなのか。そこには慢性痛の理解が医療側・患者側ともに進んでいないという問題があるという。我々は「痛み」にどう向き合うべきか。知の巨人と慢性痛治療の第一人者が語り合った。

【特別対談】本当に頼れる医者を見抜く「ひと言」

養老孟司 Takeshi Yoro
養老孟司 Takeshi Yoro
1937年生まれ。東京大学名誉教授。医学博士。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年東京大学医学部教授を退官後は、北里大学教授、大正大学客員教授を歴任。京都国際マンガミュージアム名誉館長。89年『からだの見方』でサントリー学芸賞を受賞。著書に『唯脳論』『バカの壁』『養老孟司特別講義 手入れという思想』『遺言。』『ヒトの壁』『子どもが心配』など多数。
北原雅樹 Masaki Kitahara
北原雅樹 Masaki Kitahara
1960年生まれ。医師。公認心理師。横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授。87年東京大学医学部卒業。91〜96年米国ワシントン州立ワシントン大学ペインセンターに臨床留学。帝京大学溝口病院、東京慈恵会医科大学を経て、2018年4月から現職。専門は難治性慢性疼痛の治療。複雑な要因が重なる痛みの「真犯人捜しの名探偵」。西洋のリハビリと東洋の鍼を融合したトリガーポイント療法「IMS」を日本に導入した。

肩こりから背中の痛みへ そして肺がんが判明した

【北原】私、東大医学部の頃に養老先生の授業を受けたんですが、当時はぐうたら学生だったので申し訳ありません。本日はよろしくお願いいたします。

【養老】(微笑)

【北原】去年発売された『養老先生、がんになる』(中川恵一氏との共著)を読ませていただいたら、2023年に右肩が痛み始めたことをきっかけに、肺がんが判明したというお話でしたね。

【養老】痛みというより、肩こりみたいな感じだったんです。こりと痛みは、感覚的に近いですからね。普段からこり性なもので、鍼灸師をしている娘によくマッサージしてもらっていたんです。ところがあの頃は、すぐにこってしまうし、秋になると痛みが背中まで広がった。娘は「これは肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)や脊柱管狭窄症ではなく、内臓疾患ではないか。痛む部位からして肺ではないか」と疑って、医者に診せるように言いました。

【北原】お嬢さんは名鍼灸師だと思います。それまでの肩こりはマッサージでよくなっていたのに、痛みがだんだん広がって、効果もなくなった。従来の症状とは違うと感じたとき、すぐに別の原因を考えられるのは、臨床家としての才能です。

【養老】僕は20年に深刻な心筋梗塞になってカテーテル治療を受けていますから、3カ月に一度、東大病院へ経過観察に通っていました。娘はその際ついでにレントゲンを撮ってもらうよう勧めてきたのですが、僕は医者嫌いだし受診する科をこれ以上増やしたくないので、「面倒くさい。絶対に嫌だ」と拒否しました。

そうしたら娘が、受け持ちの医者に勝手に連絡して、事情を話したんです。それで診てもらったところ、右の肺尖に腫瘍が写っていた。漠然とこりだと思っていたかなり強い不快感は、がんによる痛みだったんです。

【北原】生検(生体検査)を受けたあと、痛みが楽になったそうですね。

【養老】がん細胞を採るために針を刺して、非常に不愉快な場所の中心に針先がすっと入ったとき、まさに「そこ、そこ」という感じがしたんですよ。こりも痛みも含めて、その場所から起こっていると実感できました。

【北原】痛みの原因となる部位とは別の部位で感じる痛みを「関連痛」と呼び、原因の一つは筋肉だといわれています。先生の場合は肺からの痛みの関連痛が、肩から背中へ広がっていたんでしょうね。針で刺したことによって、それこそ鍼灸のような効果で筋肉の緊張がパッと薄らいで、痛みの寛解が得られたのかもしれません。