苦しくて受診しているのに、うまく理解してもらえない――。そんなときは、「伝え方」に問題があるのかもしれない。痛みを具体的に表現して、原因を特定するための技術を専門家に聞いた。

安静に過ごすことが逆効果になる場合も

肩こりや腰痛、ひざの不調など、慢性的な痛みに悩む人は決して少数派ではありません。製薬会社のムンディファーマが2010年に実施した大規模調査によれば、成人の22.5%、推定で約2315万人が「3カ月以上続く慢性疼痛」に悩んでいます。つまり、日本人の5人に1人は何らかの痛みを抱えながら日々を過ごしている状況と言えます。

一方で、自分が抱えている痛みがどのような性質なのかを言葉で説明したり、言語化したりすることができないために、ベストな治療を受けることができていないケースも散見されます。

痛みを放置していると、不眠や抑うつといった症状が引き起こされる場合があります。また、痛みが長引くことでストレスが増加し、記憶力や注意力、認知機能、運動機能などの低下を招くという結果が、多くの臨床研究で示されています。

日本ではよく、痛みが出ると安静に過ごすことを勧められますが、それが逆効果になる場合もあります。動かないことで痛みを感知するセンサーが鈍くなり、症状に気付きにくくなる悪循環に陥る可能性も考えられるのです。「病は気から」という言葉もありますが、鵜呑みにして我慢を続けてはいけません。自分がどのような痛みを抱えているのか、自覚的になることが大切です。よい治療を受けるためにも、痛みを適切に言語化する技術を身につけましょう。

実際に言語化する前に、まずは「痛みとは一体何か」という根本的なところから解説しましょう。

一般的に痛みというと、「ズキズキする」「チクチクする」といった、物理的な刺激を想起する方が多いのではないでしょうか。ただ実際のところ、痛みは単純な構造で発生するものではありません。

20年に改訂された国際疼痛学会(IASP)の定義によれば、痛みとは「感覚かつ情動の不快な体験」とされています。平易に言い換えると、痛みとは「ズキズキといった物理的な感覚」と「刺激から派生的に生じる不安や倦怠感といった感情」が合わさったものということです。

なんてことのない切り傷で泣いてしまう人がいるワケ

例えば、私が頬をつねられたとします。すると皮膚や筋肉のセンサーが受け取った刺激は、脊髄を経由して脳の大脳皮質に届き、そこで「どこが、どのように痛いか」が知覚されます。同時に、その信号は脳の深部にある扁桃体などの情動中枢にも送られ、不安や苦しさといった「情動反応」を引き起こします。

さらに、これまでどのような痛みを経験してきたか、あるいはそれらをどう受け止めてきたかといった経験的な記憶にリンクして、「認知的なバイアス」がかかることで、痛みが生まれるのです。「認知的なバイアス」は、その人が身を置いてきた生育環境や社会的要因に大きく影響するため、明確な基準はありません。私たちは生まれてからこの方、痛みを経験してきた量も、それによって培われた痛みを知覚する感覚も三者三様なわけです。

幼稚園や小学校でバンバン怪我をしても平気で育ってきた子どもなのか、切り傷すらほとんどつくらず過保護に育てられてきたのか、あるいはDVを受けてきたのか――。生育環境によって痛みに対する反応はまったく異なり、同じ痛みでも人によって10倍にも100倍にも刺激が増幅されると言われています。