増加する若い女性の「骨盤臓器脱」の重大リスク
皆さんは「骨盤臓器脱」という症状をご存じでしょうか。
骨盤臓器脱とは、女性特有の病気で、骨盤内の臓器(膀胱、子宮、直腸)が「腟」や「肛門」から出てしまう疾患の総称です。主な原因は、骨盤内の臓器を支える筋肉の衰えです。経産婦(出産を経験した女性)に多く、スウェーデンの疫学調査では、出産経験者の44%がかかったというデータが報告されています(Prevalence and co-occurrence of pelvic floor disorders in community-dwelling women)。日本人に関するデータはありませんが、一定の割合でいらっしゃることが推測されています。
これまでは高齢者に多い疾患でしたが、最近、出産を経験していない比較的若い女性、特にやせ型の女性の発症が目立っています。
これは大変由々しき事態です。なぜなら子宮が支えられなくなるわけですから、出産も大きく負担になります。妊娠中に子宮口が緩んでばい菌が入ったり(絨毛膜羊膜炎)、流産や早産になったりするリスクが高まってしまうからです。
「尿漏れ」を見逃してはいけない
もちろん骨盤底筋の状態は直接見て把握することができません。しかし、骨盤底筋の緩み・衰えを把握できるサインはあります。それが「尿漏れ」です。
私のところに痛みの治療に来た30代の出産を経験した女性に、初回の問診時に「尿漏れはありますか?」と聞いて驚いたことがあります。「あります。子供を産めば普通に漏れるんではないですか?」と当たり前のように答えたからです。
念のため、私の病院のある20代の女性研修医に、骨盤全脱出についてレクチャーをした際に尋ねてみると「私も尿漏れしています。友人も尿漏れしているので普通だと思っていました」と答えました。
尿漏れは「普通」ではありません。昔は出産を経験した経産婦でも尿漏れは稀でしたが、このやり取りを機に、最近の若い女性の骨盤底筋の衰えを強く憂慮することになりました。