悪いことは重なります。女性はもともと腰痛持ちで、「痛みで目が覚める」というアラームも、これまでの腰痛の延長の症状と思ってしまいました。「体重減少」というアラームも、やせ型でしたので気にしませんでした。

さらに悪いことに、痛み止めで何とかしのいでいました。ロキソプロフェンを1日6錠飲み続けたのです(筆者註:1日3錠以上の服用は危険です)。飲むと3、4時間は楽になり、ごまかしながら日々を過ごしていらっしゃったのです。

一時しのぎであればまだしも、長く続けると真の原因がごまかされてしまいます。悪性腫瘍を疑うには遠回りする条件がそろってしまっていました。薬の副作用として胃粘膜の糜爛びらん(=ただれること)も起っていました。

早めにキャッチして画像診断、早期発見、早期治療していれば、もう少し長く生きられたのではないか、夫婦の念願であった「日本一周ドライブ」の夢もかなったはずだ――。60代の夫は無念そうに涙を流していたことを今でも忘れられません。患者の医療リテラシーとともに、かかりつけ医の総合診療能力の向上も1つの課題と感じさせられました。

発見が難しく遅れることが多いすい臓がんですが、早期発見、早期治療ができていればもう少し長く生きられたかもしれません。長く天寿を全うするためには、死に至る腰痛のサインには即時対処する大切さが浮き彫りになります。

ギックリ腰は48時間“だけ”絶対安静

絶対に放置してはいけない腰痛。二つ目はギックリ腰です。

ギックリ腰が起ったら、24~48時間は徹底的に安静、ひたすらに寝ましょう。温めないほうが良いので、シャワーのみにして、風呂も控えましょう。トイレ以外はじっとしているのです。捻挫したら冷やして安静にしますよね。それと同じです。

腰に強い痛みを感じる男性
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです

こじらせるよりは仕事も休んだほうがいいでしょう。痛みがこじれてその後の仕事や生活の大いなる負債(=厄介な慢性腰痛)を抱え込むよりは、たったの2日間です。休んでください。眠れなかったら軽い睡眠薬を飲んでもいいでしょう。

「痛みが残っているのに48時間でいいの?」と疑問に思うかもしれません。現在は、さまざまな臨床研究で「ギックリ腰の急性期を過ぎたら、じっと横になって寝ているよりも、体を動かしたほうが、むしろ痛みを感じなくなる」「安静にしてるより、外に出て人と接し、情報に触れるほど、痛みを感じにくくなる」ことがわかってきました。

しかし、多くの医者は、「痛いうちは炎症が治まっていないから、痛みが治まるまでじっとしているように」という誤った指導を続けています。

以前、ある会合で田村憲久たむらのりひさ元厚生労働大臣に、「ギックリ腰は最初の48時間は安静にしますが、そのあとは痛くてもゆっくりと動かしたほうが早く回復するというのが、今や世界の常識です」とお伝えしたところ、「そんな大切なことを大臣時代に誰も教えてくれなかった!」と大きな声を出して驚いていました。