菅義偉首相が自民党総裁選への不出馬を表明した。ジャーナリストの鮫島浩さんは「菅首相は安倍前首相の支援を受けられないと確信して、再選をあきらめるしかなくなった。自民党総裁選は国民不在の“安倍争奪戦”の構図になっている」という――。
政局/取材に応じる安倍前首相
記者団の取材に応じる安倍晋三前首相=2021年9月3日午後、山口県宇部市/時事通信フォト

菅首相、突然の“不出馬表明”

菅義偉首相が政権を投げ出した。感染拡大と医療崩壊で内閣支持率が続落。自民党総裁選(9月17日告示‐29日投開票)に勝つ自信を失い、不出馬を表明した。

衆院議員の任期満了は10月21日に迫る。菅首相は10月17日投開票の任期満了選挙を予定していたが、自民党が新しい総裁を選び、その後に国会を開いて新しい首相を選出するのに必要な日数を考えると、衆院選の投開票は11月にずれ込みそうだ。

自民党は総裁選日程が決まった8月26日以降、権力闘争一色になった。このあと総裁選があり、党役員・組閣人事があり、衆院選があり、再び党役員・組閣人事がある。感染爆発と医療崩壊の最中に政権与党が選挙と人事に明け暮れる「政治空白」が2‐3ヶ月も続くのだ。

東京都の市区町長らは10月21日の任期満了まで与野党が政治休戦してコロナ対策に協力するよう提案していた。野党は前向きで、総裁選前に国会を開いて話し合おうと呼びかけていた。与野党合意の上、早急に補正予算をつくり、コロナ専用の野戦病院を緊急に開設するなどして、少なくとも「患者の受け入れ先がない」という医療崩壊だけは立て直して衆院選に入ろうという提案だった。

ところが、菅首相は国会召集を拒否。総裁再選をめざして党役員人事を画策するなど自民党内の権力闘争に没頭したあげく、不出馬に追い込まれると「コロナ対策に専念するため」と説明した。コロナ危機より自分の権力維持で頭がいっぱいだったことを、国民はとっくに見透かしていたのに……。私利私欲の政治によって救えるはずの命が失われていく現実に、怒りを禁じ得ない。

現在進行中の自民党政局は、国民不在の権力闘争に明け暮れる政治家たちの素顔を照らし出す。これから行われる総裁選、その後の衆院選を単なる権力ゲームに終わらせてはならない。私たち有権者はコロナ危機下の二つの選挙に明確な「意味づけ」をして厳しい目で見つめることが重要だ。

この二つの選挙で問われるべきことは何なのかを根本から考えてみたい。