今回の総裁選で「内輪もめ」がついに「仲間割れ」に発展し、安倍氏は菅首相を切り捨てた。安倍氏と麻生氏は岸田氏を支援し、二階氏は菅首相を支援したが、最後は菅首相が安倍氏の要求をのんで二階氏を切り捨て自滅したのである。

菅首相の不出馬で、総裁選の構図は一変した。国民的人気の高い河野太郎ワクチン担当相と石破茂元幹事長が一転して出馬に意欲を示し、岸田氏に挑む。共同通信が9月4~5日に実施した「次の首相に誰がふさわしいか」の世論調査では、河野氏31.2%、石破氏26.6%、岸田氏18.8%だった。

国会ビルディング日本での夜
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/Taku_S)

総裁選は国会議員票383票(1人1票)と党員票383票(約113万人の党員票を比例配分)の計766票の過半数を取れば勝ち。誰も過半数に届かなければ上位2人による決選投票となり、国会議員票383票と各都道府県連に1票ずつ配分された党員票47票の計430票を争う。国会議員票の比重が増し、ここまできたら派閥の力がモノをいう。

岸田氏は第5派閥・岸田派(46人)を率いる。国民的人気が低く派閥の規模でも対抗できないため、安倍氏率いる最大派閥・細田派(96人)と第2派閥・麻生派(53人)の支援が頼みだ。決選投票に勝ち残れば安倍氏らを後ろ盾に勝利する可能性は高い。

しかし菅首相よりマシというだけで支持を広げてきただけに、河野氏や石破氏が相手になれば一気に失速する恐れもある。世論調査で苦戦が伝えられた途端に安倍氏に見放され、総裁レースから早々と脱落する可能性もある。

“人気者”にちらつく「長老」のかげ

河野氏は世代交代を求める党内若手に待望論が強い。党員投票で優位に立ち、国会議員にも派閥横断的に支持が広がり地滑り的に勝利する可能性がある。懸念されるのは、河野氏の背後に「長老」の影がちらつくことだ。

菅首相は出馬を断念した時には同じ神奈川県選出で気脈を通じる河野氏を担いで岸田氏に対抗する心づもりでいた。河野氏は不人気の菅首相の「後継者」と位置付けられる恐れがある。無為無策のコロナ政策に閣僚として関与してきたこともマイナスだ。河野氏にはコロナ対策の抜本的転換はできない――そう追及された時にどう応じるか。安倍内閣で外相や防衛相を歴任したことも懸念材料だ。安倍氏の疑惑解明にどんな姿勢をみせるのか。

所属派閥・麻生派との関係も微妙だ。麻生氏は世代交代を嫌って昨年秋の総裁選で河野氏の出馬に反対した。今回は出馬自体は認めるものの、派閥としては支援しない見通しだ。麻生氏と決別覚悟で出馬に踏み切れるか、出馬しても麻生氏の影響力を排除できるか。

石破氏は昨年秋の総裁選で最下位に沈んで石破派は崩壊状態となり、出馬に必要な推薦人の20人を割り込んだ。石破氏の存在感は陰り今回の出馬も消極的だった。しかし菅首相の不出馬で一転して意欲をみせた。二階氏の力を借りて推薦人を確保するしかないが、幹事長として暗躍を重ねてきた二階氏の影を引きずれば、頼みの党員投票で伸び悩むというジレンマを抱える。