国民不在の総裁選、冷静に見定めよう

石破氏は過去4回総裁選に出馬し、知名度は抜群。安倍氏に干され続けてきたため、安倍氏の疑惑追及もコロナ政策の転換も訴えやすいのは強みだ。自民党には政権運営に行き詰まった時、「振り子の原理」で非主流派に首相を移して国民世論を引き寄せてきた歴史がある。

衆院選を間近に控え、石破氏に安倍・菅政権からの刷新を期待する声はベテラン党員を中心に強い。政治キャリアは最も充実しており質疑も安定している。ただし国会議員票に弱く、決選投票を制するのは極めて難しい。石破氏は安倍路線を引き継ぐ岸田政権の阻止を優先し、出馬をとりやめて河野氏支援に回り、河野氏が第一回投票で過半数を獲得することをサポートする可能性もある。

高市 早苗
高市早苗氏(首相官邸ホームページより)

高市氏は安倍氏に近い右派政治家だ。無派閥ながら菅首相の対抗馬に真っ先に名乗りをあげた。当初は安倍氏が菅首相の無投票再選は認めないと牽制するカードと見られたが、菅首相が不出馬を決めた後、安倍氏はただちに高市支持を表明。右派言論人や安倍氏に近い若手議員からは高市支持の声が相次ぐ。

安倍氏の本命は岸田氏との見方は根強い。候補者乱立で党員投票を分散させ決選投票に持ち込み、最後は派閥の票を岸田氏に結集させ河野氏や石破氏に競り勝つ戦略というわけだ。とはいえ、安倍氏の高市支持は岸田氏の失速を誘発するかもしれない。安倍氏は岸田氏失速の気配を感じ取り高市氏に本命を変えた可能性もある。高市氏の得票数はキングメーカーとして君臨する安倍氏の本当の実力を可視化することになろう。

はたして今回の総裁選が「安倍氏ら長老による自民党支配」に終止符を打ち、安倍・菅政権で蓄積された膿を出し切り、崩壊した日本の行政を再建する転機となるのか。総裁を目指す各候補が「派閥の数」目当てに国家利権を独占してきた長老たちの支持獲得を競いあうようでは、政治への信頼を取り戻すことはできない。

感染爆発と医療崩壊を食い止めなければならない貴重な時間を自民党内の権力闘争に費やされたら国民はたまったものではない。自民党は自浄作用を発揮して新たな政治へ踏み出すのか。私たち有権者がその審判を下すのは総裁選後に控える衆院選である。それに備え「国民不在の総裁選」の行方を冷静に見定めよう。

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