就職差別につながる不適切な質問
「あなたは、どんな本を愛読していますか?」――。就職面接で採用担当者にこう聞かれたらどう答えるだろうか。というより、この質問自体が禁句であることを知っているだろうか。
実は愛読書については「就職差別」につながる「不適切な質問」として厚生労働省が質問しないように指導しているのだ。なぜか。その根拠は日本国憲法14条が保障する基本的人権を守ることからきており、厚労省はこう説明している。
「基本的人権の一つとして全ての人に『法の下の平等』を保障していますが、採用選考においても、この理念にのっとり、人種・信条・性別・社会的身分・門地などの事項による差別があってはならず、適性・能力のみを基準として行われることが求められます」(厚生労働省「公正な採用基準をめざして」)
また、憲法22条の「職業選択の自由」に基づく「就職の機会均等」を実現するために不合理な理由で就職の機会を奪われないように雇用する側が、応募者に広く門戸を開いて適性・能力のみを基準とした「公正な採用選考」を行うことを求めている。つまり、採用選考は応募者が職務遂行上必要な適性・能力を持っているかどうかを基準に判断すべきであり、適性・能力とは関係のない事項について応募用紙や質問で把握することは就職差別につながるおそれがあると言っている。
愛読書を聞いてはいけない理由
なぜ愛読書を聞くことがだめなのか。厚労省は「思想・信条」にかかわることであり「採否の判断基準とすることは、憲法上の『思想の自由』(19条)、『信教の自由』(20条)などの精神に反する。採用選考に持ち込まないようにすることが必要」(同上)だとしている。
愛読書がだめなら愛読しているマンガや好きな映画はどうなのかという疑問も沸いてくる。だがそれはさておき厚労省は毎年、都道府県やハローワークなどを通じて企業に注意を呼びかけている。
例えば滋賀県教育委員会は今年7月1日~31日の期間を「なくそう就職差別 企業内公正採用・人権啓発推進月間」に設定し、従業員20人以上の企業への啓発活動を実施。7月8日には今年3月に卒業した県内の高校生に対する「不適切な質問」調査結果を公表している。それによると「不適切な質問」を行った企業は823社中33社。件数は37件だが、最も多かった質問は「愛読書」で20件だった。