プロレスラーの夢と八方塞がりの未来

10代後半、20代の時間のすべてを父親の介護に費やした和泉さんだが、幼い頃から抱いていた、「プロレスラーになる」という夢に少しでも近づくために、2018年頃から生活費を切り詰め、ない時間を捻出し、格闘技教室とプロレスのトレーニングジムに通い始めた。

すると地元のレスラー好きの仲間と知り合い、交流ができた。介護や仕事とは関係のない時間は和泉さんにとってかけがえのないものだった。だが、2020年のコロナ禍以降、格闘技教室は休校になり、仲間との交流も途絶えてしまった。

ルチャリブレメキシコレスリングマスク
写真=iStock.com/sdstockphoto
※写真はイメージです

ただ、和泉さんは、約8年前に大仁田厚さんの試合を見に行った際に、本人と話したことを今でも覚えている。うれしさと緊張のあまり、何を話したのかはよく覚えてないが、大仁田さんと話している最中にスマホが鳴ってしまったときに、「おい! お前はまだスマホ持てるんだからいいよ! 俺なんて団体立ち上げた頃、携帯持つお金もなかったもん!」と言われたことと、「俺もヘルパー2級の資格を持ってるぞ!」と言っていたことだけは忘れられない。

大仁田さんは、その後も和泉さんが試合を見に行くと、話しかけてくれるようになった。

2018年頃には、「お前のSNS見てるからな! どん底かもしれないけど、あとは上がって行くだけだぞ!」という激励の言葉をかけられた記憶が、和泉さんの心にずっと残っている。

和泉さんは高校卒業後、中学や高校時代の仲間たちとは距離を置き、極力会わないようにしてきたが、年末年始やお盆などになると、今でも家の玄関のドアノブに、都会から帰省したと思われる旧友からのお土産がぶら下がっていて、袋の中には一言『今はコロナ禍やから、会わずにお土産だけ置いとくね』と書かれたメモが添えられていることがある。

「中学や高校時代の仲間たちとは、つらくなるだけなので会わないようにしています。トレーニングジムでの練習を再会したいのですが、金銭的に苦しいことと時間がないこと、そして父が退院したので、家に一人でいる父のことが気になってトレーニングに集中できないため、近々辞めようかと悩んでいます」

和泉さんにとって、トレーニングジムを辞めることは、プロレスラーになる夢を諦めることに等しい。近年、和泉さんのように10代の頃から身内を介護せざるを得ない状況に追い込まれるケースが顕在化してきている。少子高齢化、晩婚化・高齢出産傾向が止まらないわが国では、介護問題の深刻化が決定的となり、2025年問題、2050年問題が迫る。

和泉さんのようなヤングケアラーはもちろん、子や孫、配偶者など身内による介護は、その人との楽しく幸せな思い出さえも、つらく苦しい思い出に上書きし、時には恨みや憎しみに変えてしまうことも少なくない。

誰だって大好きだった人に対して、「早く死んでくれ!」などと思いたくない。

しかるべき施設で専門職による介護サービスが、必要な人に必要なだけ行き渡るよう、早急に整備する必要があるだろう。

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