30歳独身の男性は高校時代から13年間も父親の介護をひとりでしている。父親は脳梗塞の後遺症や糖尿病網膜症などを患い、要介護4。ギャンブル狂の母親は父親と離婚し、パチンコで知り合った男性と再婚。男性は、昼夜を問わない介護で消耗するだけでなく、底意地の悪い親戚や自分の陰口をたたく職場同僚などにも悩まされ、心を病んでしまう――(後編/全2回)。
【前編のあらすじ】
子煩悩だが、酒を飲むと暴れて手がつけられない土木関係の仕事をする父親。借金までしてパチンコにのめり込み電気やガスを止められる事態を招いた看護師の母親。夫婦ゲンカが絶えない家庭で育った九州在住の和泉直也さん(現在30歳・独身)は、小学校高学年の頃から不登校に。中学に上がる頃には、母親はパチンコがきっかけで知り合った男性と暮らし始め、両親は離婚。和泉さんは同じような境遇の仲間とつるみ、酒やタバコを覚え、深夜まで遊び歩くようになる。夜間高校に進んだ和泉さんがまもなく高校2年に進級しようとしていた2007年2月、57歳の父親は脳梗塞を発症。右半身にまひと、失語症が残ったが、リハビリをしたかいあって杖歩行ができるまでに回復。しかし、高次脳機能障害で正常な判断力を失っていた父親は、和泉さんの高校生活の妨げになるのだった――。

10、20代の青春時代を父親の介護に捧げた30歳男性

2010年春、和泉直也さん(現在30歳・独身)は夜間高校を卒業し、学童保育の職員として働き始めた。

シルエットの感情
※写真はイメージです(写真=iStock.com/oopoontongoo)

しかし、働きながら脳梗塞の後遺症に苦しむ父親(当時60歳)の介護をするのは想像以上にハードだった。自分が中学の頃に、両親は離婚し、母親が家を出ていってしまったため、父親をサポートできるのは自分しかいない。

朝、6時頃に父親に呼ばれて起床。朝食を準備して父親の服薬を介助し、デイサービスがあるときは見送ってから仕事へ出かける。昼休みに一時帰宅し、父親が家にいるときは昼食の準備をして、服薬を介助して仕事へ戻る。夕方は、仕事が終わったら買物をして帰宅。掃除や洗濯などをして、終わったら1時間ほど仮眠を取る。その後、夕食の準備、父親の服薬介助、入浴介助などを行う。

父親が就寝したあとはゲームをしたり本を読んだりして過ごすが、約1時間おきに父親に「おーい!」と呼ばれる。父親は目が覚めたとき側に和泉さんがいないと呼ぶのだ。呼んでも来ないと、だんだん大きな声になり、最終的には叫ばれる。

常に側にいればいいのだが、そうもいかない。まとまった睡眠がとれない和泉さんは、仕事と介護と睡眠不足で疲弊していった。

そんなある日、大好きなプロレスのテレビ放送を見ていた和泉さんを、いつものように父親が呼ぶ。返事をしたものの、プロレスから目が離せずにいると呼ぶ声がだんだん大きくなり、ついに叫ぶような大声に変わる。思わずカッとしてした和泉さんは、洗濯して取り込み、畳んでいたTシャツで父親を何度も叩いてしまい、後悔に苛まれた。