久々に訪れた実家は母親が通販で購入した品物で溢れていた。両親の貯金は底をつき、家賃も光熱費も滞納。母親は認知症を患い、金銭管理ができなくなっていた。50代の息子は通販の未払い分や家賃を肩代わりしたが、それでも母親は「金を出せ!」と要求。仕事をしながら両親の介護も始めた男性は、ある日、堪忍袋の緒が切れ、父親に馬乗りになり、母親の髪を鷲掴みにして怒鳴りつけた――。(後編/全2回)
中年男性
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【前編のあらすじ】
現在50代後半の深戸雅人さん(仮名・既婚)は暴力と暴言の限りを尽くす毒親に育てられた。高卒後に就職するとすぐさま独立し、実家に近づかないよう努めた。ところが結婚後、妻が義母の“攻撃”を受け、軽いうつ状態に。ますます実家の両親とは関わらないようになったが、ある日、ケアマネージャーと名乗る者から電話が入る――。

コロナ禍で父親の肺炎

関西地方で妻と社会人になった娘と住む50代後半の深戸雅人さん(仮名・既婚)。母親は2015年、81歳のときに人工股関節置換手術を受け、身体障害者4級となっていた。2020年に86歳になってから認知症の症状が出始め、すっかり昼夜逆転生活をする母親に代わり、87歳の父親が家事全般を担当。

1歳上の父親は2019年までは、かつての本職・ボイラー技士の仕事の依頼をときどき受けていた。

2020年4月、深戸さんが仕事中、訪問看護師から「お父さんが発熱しました」との連絡が入った。実家までは電車を乗り継いで1時間半。「今日は難しいので、明日実家へ伺います」と返事した。翌朝、再び訪問看護師から電話が入る。「お父さんの発熱が続いているため、かかりつけ医に連絡したところ、『コロナ禍のため受け入れられない』と言われました。救急搬送を指示されたのですが、救急車を呼んでもよいですか?」と聞かれたため、深戸さんは承諾し、「すぐに自分も向かいます」と返事する。

町工場での仕事を休んで実家に行くと、救急隊が到着したものの、受け入れ先が見つからず、「自宅で安静にすることになりました」と訪問看護師から伝えられる。父親は肺炎を起こしているようで、訪問看護師がかかりつけ医から点滴の機材や酸素供給機器を借りてきて、父親の寝室にテキパキと設置してくれた。

その日、深戸さんは、父親の看病と母親の介護のため、実家に泊まることに。このときようやく、「実家が寝るのも危険なほどのゴミ屋敷状態になっている」とはっきり認識した。

「以前から『どんどん家の中が散らかってきたな』『両親がボケたことを言ってるな』とは感じていましたが、(毒親とは)極力関わりたくないと思ってましたから、見て見ぬ振りをしていました。母が通販で購入したものが家中に溢れており、寝るスペースもないほどで、母はいつも座った状態で眠っていたみたいです」

その母親はというと、なぜか頑なに、肺炎で苦しむ父親の側を離れない。深戸さんが食事を用意して声をかけても、完全に深戸さんに背を向け、箸をつけようとしない。

その深夜、父親の容体が急変。再度救急車を呼ぶが、やはり受け入れ先がないとのことで、来てもらえない。深戸さんは父親のために、初めて眠れぬ夜を過ごした。

翌日も、かかりつけ医は受け入れ拒否するだけでなく、「このままでは訪問看護師の訪問もできなくなります。PCR検査を受けてください」と言う。

深戸さんは、言われるままに保健所に連絡するが、電話が込み合っていて通じない。1時間ほどかけ続けてようやくつながったが、「渡航歴がないと検査できません」と断られる。