在宅介護の限界

2020年の年末、「正月の準備があるので、お父さんと私の口座から10万ずつおろして持って来て」。これが母親からの最後の電話になった。

体温測定
写真=iStock.com/SetsukoN
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2021年に入り、87歳の母親の認知症はさらに進み、要介護2と認定。みるみる衰えていき、電話はおろか、会話もままならなくなる。

同年3月、母親はベッドの上も寝るスペースがないほど物が溢れていたため、いつからか横になって眠る習慣がなく、ファンヒーターをつけたまま椅子に座って寝ていたところ、脱水症状から発熱を繰り返すようになり、かかりつけ医の指示で入院。

これがきっかけで、ついにかかりつけ医は母親の在宅介護の限界を通達。深戸さんは特養に申し込みをするため、かかりつけ医に可能な限り介護度が上がる方向で意見書を書いてもらえるよう頼み、介護度の見直し申請を出した。

基本的に特養は、要介護3以上が出てからでないと申し込めない。だが、認定調査の結果が出るまで病院で待つことはできないため、病院側から両親が一緒に入れる有料老人ホームを紹介されたが、金額的に難しいため断った。

病院のソーシャルワーカーやオレンジチームの職員に相談したところ、母親は退院後、老健にいったん入って特養の空きを待ち、父親はギリギリまで在宅で粘ろうという方針に決まる。

4月、母親が老健に入所した数日後に要介護4の認定結果が届き、深戸さんはすぐに特養の申込みをした。

一方、88歳の父親は在宅介護を続けつつも、歩行障害のため、デイサービスなどに外出するときは車椅子生活を余儀なくされていた。徘徊は不可能と思われたが、少し目を離すと、おぼつかない足取りで外に出て行こうとし、転倒することが頻繁に。認知の低下が急速に進み、母親が入院したことも理解できなかった。

父親はすでに2020年の年末には要介護3と認定され、今年に入ってすぐに複数の特養に申し込んでいるが、男性の特養入所は女性よりも難しく、一向に連絡がない。

2021年6月、母親のほうに4~5カ所の特養から面談の連絡が来た。深戸さんは連絡を受けた特養に男性の受け入れについて訊ねると、可能性があるのは2カ所。そのうち1カ所から、「(期間限定の)ロングステイ、もしくはショートステイなら受け入れられる」との回答をもらえため、この特養に母親は入所を、そして父親はロングステイをさせることに決めた。

6月末、父親が、母親よりひと足先にロングステイで特養の利用を始めたが、3日目に職員が目を離した隙に転倒。起き上がれず痛みを訴えるため、病院へ搬送すると、大腿骨を骨折していることがわかり、手術を経て入院することになった。