アメリカ大統領選挙で配偶者が前面に立つ理由

「個」の話に戻すと、英語にはbetter halfという言葉がある。「伴侶、配偶者」という意味で、よく男性が妻のことをこう呼んだりする。

Come along, I will introduce you to my better half.
(ちょっと来て。僕の妻を紹介するから)

妻と自分が半分半分で(その意味では二人で一つですね)、自分より妻のほうが「より良い、マシな」半分だ、というわけだ。日本語には「愚妻」という言い方があるが、それとは対照的に自分よりマシと持ち上げて表現している。

英語のbetter halfは「自分より良い伴侶、(夫婦を一つとすると)二分の一」という発想だが、「愚妻」の「愚」は夫である自分と比べて「愚かだ」と言っているわけではない。妻はウチにあり、ウチのものはソトである相手より劣った、くだらない人間であると自己卑下、ウチ卑下(?)している。

身内のことを良く言う習慣は、家族がきちんとしていることのアピールという側面もある。アメリカ大統領選挙の様子は日本でもよくメディアを介して垣間見ることができるが、候補者の配偶者が出てこないことはない。子どもたちが登場することも普通だ。「きちんと家族をもっている」ということは、「その人自身もきちんとしている」ということの表れと考えられている。

オフィスに家族の写真を飾っている人も多いが、(もちろん家族愛ゆえでもあるものの)「まっとうな家族を持っている、まっとうな家族生活を送っている=まっとうな人間」という図式がある。大統領選などで、そこをアピールするのは当然だ。

オフィスのデスクには家族写真
写真=iStock.com/mediaphotos
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この意味では、日本のほうが個人主義的と言えるかもしれない。「家族思い」とか「愛妻家」などという言葉があるが、そもそもそういうことをイチイチ英語で言うことはあまりない。むしろ、「タテマエ」としてそれが普通だからである。