日本語ではよく使うあいさつでも、それをそのまま英語に訳して使うと、英語話者には怪訝な顔をされることがある。言語学者の井上逸兵さんは「『いつも妻がお世話になっています』という話し方は、英語では避けたほうがいい」という――。

※本稿は、井上逸兵『英語の思考法』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

英語圏であいさつ
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ネガティブなセリフの前につける魔法の言葉

英米のコミュニケーション文化である「独立」の「タテマエ」は、必然的に「個」と深く結びついている。

「個」の尊重は「あなたのことをわかってますよ」という表現につながる。これは慣習的な表現で伝えたり、言う内容によって伝えたりする。例えば、「あなたのことはわかってますよ」「認識してますよ」ということを示すための標識となっている表現にI knowがある。

これは日本人にも当てはまることだが、誰にでもできる話よりも、「あなただけ」と特別扱いされるほうがだいたい気分がいいものだ。

I know you love horror movies but I would recommend something else for your first date.
(君がホラー好きなのわかるけど、初デートは別のジャンルがいいんじゃない?)
〔心の声:君のことわかってるでしょ? 伝わるといいなー〕

なにかネガティブなことを言わなくてはならない場合でも、I know you xxx but……というパターンで言うと、相手の「個」を尊重し、「あなたのことをわかっているよ」という分だけネガティブ度が下がるだろう。

I’m sorry, I know you prefer red but they were sold out, so I bought the white wine.
(すみません。赤のほうがお好きなのわかってるんですけど、売り切れてまして。だから白ワイン買いました)

という具合だ。これは日本のコミュニケーション文化にも通じる気遣いの表し方だろう。

それ以外にも、相手の「個」を尊重する細かな言い方がある。right?だ。

You like beer better, right?
(ビールのほうが好きだよね?)

と、rightを文末につけて上がり調子で発音すれば、「あなたのことわかっていますよ」「よく覚えていますよ」というメッセージになる。これらの表現は、相手のことをわかっているという点で「つながり」志向という側面もある。