アメリカ人が妻を下げて紹介すると浮気を疑われる

日本であれば、自分の身内は自分と同様に下げて謙遜することも珍しくない。むしろ一昔前であれば、それが普通だった。自分の身内を褒めようものなら、笑われるかバカにされるのがオチだったろう。

英米文化では(あるいは欧米全般に言えそうだが)、人前で身内のことをあまり悪く言うことはない。むしろ、良く言うのが普通である。特に女性に対して妻を下げるようなことを言おうものなら(謙遜のつもりでも)、その人と浮気でもしたいのかと勘ぐられ警戒される(か、期待される?)可能性がある。それくらい悪く言わないのが普通である。

この慣習については、いくつかの側面があるが、自分の身内でも「個」と見なす、ということが基本としてある。日本では、「ウチ」と「ソト」とを区別し、配偶者は「ウチ」に属するので、自分の延長だ。自分は下げる(謙遜)のが日本のコミュニケーション文化の特徴である。

したがって、妻の職場の上司に会ったとしても、「いつも妻がお世話になっています」などと言わない。妻は妻で自分とは「独立」した一個人なので、「個」である妻の「独立」領域を侵害して「お世話になっている」などと感謝しないのが普通である。

ついついこういう場面で、「お世話になっています」→「お世話する」からtake care ofを覚えている人はこれを使って挨拶したくなるかもしれない。

× Thank you for taking care of my husband/wife.

などと英米人に言おうものなら、びっくりされるかもしれない。夫/妻は働いているのであって、介護したり面倒を見たり(take care)されているのではないし(相当メンドーな人だってことか?)、そもそもそんな御礼を別の「個人」である配偶者がするとは想定されてない(ペットか?)。

アメリカ人も使い分ける「ホンネ」と「タテマエ」

ちなみに、この状況でよく言う典型的な言い方は、

I’ve heard a lot of things about you from (妻/夫の名前).

これは「お噂はかねがね聞いております」という主旨の表現だが、「つながり」志向的な言い方でもある。実際はその人の話などしていなくても「あなたの話をいつもしてますよ」という態度を示しているのである。心の中では、〔そんなにはあなたの話してないけどね〕と思っていてもである。

「お世話になっている」はこちらが下で、相手が上だが、「対等」の原理から言ってもそういう上下関係はないように振る舞うのが英米のコミュニケーション文化だ。

さらにちなみにだが、偶然久しぶりに出会った友人にLong time, no see.などと話しかけられた時の答え方として、

I was just thinking about you!
(ちょうどあなたのこと考えてたんだよ!)

などと言ったりする。だいぶウソっぽいが、それでも言ったりする。「ほかでもないあなたのことを考えていたんですよ」というふうに「個」であることをアピールした「つながり」志向の「タテマエ」セリフである。