職場でも家庭でも何かと「成長していないな」と感じることはありませんか? 成長はしたいけれど、同じ失敗を繰り返してしまったり、強いプレッシャーが伴って心が疲れてしまったり……。哲学者の小川仁志さんは、「人は成長を望む生き物。問題はそのせいで人生がプレッシャーとの戦いの日々になってしまうこと」と言います――。
※本稿は、小川仁志『幸福論3.0 価値観衝突時代の生き方を考える』(方丈社)の一部を再編集したものです。
なぜ人は失敗を繰り返してしまうのか
「ああ、自分は成長してないな」と感じることはありませんか? そういうときは落ち込むものです。自分が嫌になることさえあるでしょう。私もそう感じることがよくあります。いちばん多いのは、同じ失敗を繰り返したときです。
人は失敗から学ぶといいます。実際、失敗は心に残りますから、それを教訓にして次はうまくできるように対策を練るものです。にもかかわらず、同じ失敗をしてしまう。ということは、成長していないということです。
成長できない理由
やはりそれは本当の意味で経験をしていないからでしょう。つまり、失敗を含め、自分が経験したことをちゃんと自覚していないからだと思うのです。
たとえば、失敗の原因を分析し、二度と同じ過ちはおかすまいと心に誓うなどしていれば、さすがにそう簡単に同じ失敗は繰り返さないはずです。
ところが多くの場合、「今度は気をつけよう」と軽く思う程度ですませているのです。
経験の自覚、それこそが人を成長させるカギを握っているといえます。
その点で参考になるのが、近代ドイツの哲学者ヘーゲルの『精神現象学』です。
書名を聞いただけでは難しそうですが、趣旨は簡単です。つまり、意識は経験を経て成長していくというものです。もともとは「意識の経験の学」というタイトルがついていたくらいです。
いったいどうやって意識は成長していくのか。ヘーゲルはそれを意識が旅を経て成長する物語として語っています。
意識は旅をする中で、成長するごとに名前を変えていきます。最初は素朴な「意識」だったのが、「自己意識」、そして「理性」へと成長していくというのです。