寺を切り盛りできず、食っていけない僧侶を国は見殺しにするのか

では、各寺院がどれだけの檀家数を抱えているかといえば、情報開示していないので、なんともいえない。

だが、例えば、浄土宗(寺院数約7000カ寺)が実施した宗勢調査(2017年)では、全体の18.4%が51〜100戸の範囲に収まっている。寺院専業で生計を立てていける(家族を養える)目安である檀家数(300軒以上ともいわれる)の割合は、12.2%にとどまっている。年収面でみれば300万円未満の低収入寺院が39.6%、300万円以上500万円未満の収入の寺院が14.3%、500万円以上1000万円未満が22.8%、1000万円以上が23.3%となっている。どの宗派も概して同じような分布傾向とみてよい。

つまり、布施収入だけで生計を立てられない寺が多数派なのだ。

人けのない寺
撮影=鵜飼秀徳

そこへ、コロナパンデミックが仏教界を直撃した。昨年来、「3密」状態になりかねない法事は減り、葬儀も「家族葬」や「1日葬」、あるいは火葬のみの「直葬」になるケースが劇的に増えた。さらに花まつりやお彼岸、お盆などの年中仏教行事も、多くの寺院が規模縮小や自粛に追い込まれている。

もっといえば、企業や学校法人や社会福祉法人、NPO法人などに対して実施された国の経済的支援策である「持続化給付金(上限200万円)」も宗教法人は対象にならなかった。その理由は、政府が宗教団体に公金を入れれば、国民から政教分離の原則に反する可能性がある、としているからだ。

当然のことながら、緊急事態宣言に伴って経済的影響を受けた飲食店や関連事業者に対する一時金なども宗教法人は適用になっていない。

終息祈願を掲げる寺院
撮影=鵜飼秀徳

国や行政レベルで寺院消滅回避への対策が必要

現在、寺院は全国におよそ7万7000も存在する。そのうち、無住寺院(住職がいない空き寺)などは1万7000カ寺近くに及ぶとの調査がある。良いお寺研究会では、後継者不足から、2040年には無住寺院がさらに1万ほど増えると試算しているが、コロナ禍が長引けば「寺院消滅」のスピードはより早まることだろう。

地域からコミュニティの核である寺が消えれば、地方の衰退はますます加速するという悪循環に陥る。寺院消滅は、地域の安全にも関わる。空き寺が犯罪の温床になったり、防災の拠点として機能しなくなったりするからだ。

もはや、いち寺院や包括宗教法人(宗門)だけの問題だけでなく、国や行政レベルで寺院消滅回避への対策が求められるだろう。

【関連記事】
豊田章男社長が毎夏「山寺で供養」を欠かさない理由
政治家やマスコミが連呼した「ステイホーム」はコロナ対策として大間違いだった
「親の後始末をお金で解決したい」じわじわと増えつつある"家族代行業"のリアル
2020年、人々を最も怯えさせたのは「志村けんさんの死」だった
ブッダの言葉に学ぶ「横柄でえらそうな人」を一瞬で黙らせる"ある質問"