1000万円超の仏像、数百万円のお鈴……金や宝石などを扱う貴金属専門店の一部には「金の仏具コーナー」がある。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「仏具が相続税非課税なのは、『ご先祖さまを祀り続けたい』といった日本人に深い供養心があるからで、極楽浄土に似せて仏壇や仏具を黄金に飾るのは貴い行為です。しかし中には、明らかな課税逃れ、節税目的で購入する人もいる」という――。
黄金の輝きを放つ鹿苑寺金閣
撮影=鵜飼秀徳
黄金の輝きを放つ鹿苑寺金閣

1グラムあたりの金の価格は20年前の約3.9倍

コロナ禍を背景にして金の価格が、過去最高水準を維持している。金は有事の際には、安定的な資産として買い求められる傾向にある。

貴金属大手の田中貴金属工業の、2021年2月の参考小売価格(税抜き)は1グラム当たり平均6199円。昨年8月に平均値でピークを記録した6757円から比べると、やや下落しているものの、20年前の1991年2月の1574円と比べれば、約3.9倍の高水準だ。10年前の2011年2月の3673円と比較しても、約1.7倍となっている。

実は、金と仏教信仰との関係は深い。

歴史的に、全国各地の寺院では、随所に金が使われてきている。仏像はもちろんのこと、本堂内陣(儀式を実施する聖域)は金ぴかである。これは、寺院空間を極楽に見立てて荘厳にする意味がある。

その最たる例として、京都の鹿苑寺金閣や、岩手県平泉の中尊寺金色堂、栃木県日光の輪王寺大猷院などの黄金建築がある。東京・芝の増上寺の内陣も黄金に包まれている。

貴金属専門店内に「金の仏具コーナー」があるワケ

家庭における仏教空間も同様である。それは、仏壇まわりだ。東京都心などではマンション住まいが増え、仏壇を置く家庭が少なくなっているが、それでも現在、全国の世帯の5割ほどで仏壇を保有(出所:國學院大學「日本人の宗教団体に対する関与・認知・評価に関する世論調査」では48%、2009年)している。

特に浄土真宗の門徒を対象にした仏壇には、金箔をふんだんにあしらったものが少なくない。仏像や厨子、お鈴、具足類(花立て、燭台、香炉など)に金が使われている。

仏壇用の仏像、仏具はさほど買い替えるものでもないと思われがちだが、さにあらず。金の需要の高まりは、仏具にも多少なりとも影響するのだ。

実際、金地金やジュエリーを扱う貴金属専門店内には、なぜか金の仏具コーナーがある。1000万円を超える仏像のほか、数百万円もする純金製のお鈴や、蝋燭立てなど。確かに純金のお鈴は、なんとも言えない柔らかい響きが特徴だ。