新型コロナ感染の猛威が続いた2020年。人々は、行動様式の変容を余儀なくされるなど、異例ずくめの年となった。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「仏教界を取り巻く環境も、葬儀や参拝のあり方を含めて一変し、大みそかや初詣も、例年とは異なる形となりそうです。人々の警戒心の広がりは、3月29日に志村けんさんがコロナで亡くなったことがきっかけになったのではないか」と指摘する――。

「志村けんさんの死」が日本人にもたらしたインパクト

仏教界にとって、この一年は異例ずくめの年となった。

2008年9月27日、「志村けんのバカ殿様 大盤振舞編 DVD箱」の発売記念イベントに登場した志村けんさん(神奈川県川崎市のラゾーナ川崎プラザ)
2008年9月27日、「志村けんのバカ殿様 大盤振舞編 DVD箱」の発売記念イベントに登場した志村けんさん(神奈川県川崎市のラゾーナ川崎プラザ)写真=時事通信フォト

振り返ればコロナ感染症が拡大した春先、葬送の現場でも警戒感が広がっていた。とくに3月29日にコロナ感染症でタレントの志村けんさんが亡くなったことをきっかけに、寺はさまざまな仏教行事の取りやめ、儀式の規模を縮小したりする動きが加速。なかには過剰に感染症を恐れ、寺の門を閉ざす動きも。同時に、コロナ感染症によって、仏教界が潜在的に抱えていた課題が炙り出され、寺院の本来の役割が見えてきたのも事実だ。

この年末年始、特に拝観寺院は厳しい状況を迎えそうだ。

通常であれば参拝客が多く訪問し、除夜の鐘撞きや初詣に訪れる。しかし、すでに除夜の鐘や新年の参拝の中止を決めた寺院が出始めている。

多数の名刹・古刹を擁する京都の大みそかの夜は、市内のあちこちから寺の鐘の音が響いてくる。地域住民や観光客に除夜の鐘を撞かせてくれる寺院も少なくない。

だが、撞木につながる綱は不特定多数の参拝客が握ることになる。また、境内では暖を取るためのスペースが設けられ、年越し蕎麦などの振る舞いがされる。そのため、例年にはない感染症対策が求められそうだ。

大みそかの除夜の鐘も初詣も、例年通りの形ではない

京都では建仁寺や知恩院、天龍寺などで、奈良では東大寺などで一般客を入れずに、僧侶のみで鐘撞きが実施される。大阪・四天王寺や京都の真如堂、誓願寺などでは除夜の鐘の儀式そのものが中止に。12月18日現在で例年通り実施されるのは京都・清水寺、高台寺、醍醐寺などとなっている。

昨年の除夜の鐘の風景
昨年の除夜の鐘の風景(撮影=鵜飼秀徳)

例年、多くの初詣客が訪れる東京の増上寺では、年末年始の混雑に対応すべく、すでにホームページ上で時間ごとの混雑予想をアップしている。大みそかから新年3日までは360度カメラを境内に設置。混雑状況をリアルタイムで配信するとともに、サーモグラフィーも設置する用意周到ぶりだ。

明治神宮に次いで初詣客が多い(例年300万人近く)成田山新勝寺(千葉県)は、予定通り行事を実施するが、ホームページ上で「#1月ずーっと初詣」とキャッチフレーズを掲載し、分散参拝を呼びかけている。

長野県随一の善光寺の場合、数え年で7年に一度のご開帳が、2021年春に実施される予定だった。前回2015年のご開帳では700万人以上が参拝に訪れた。長野の経済を支える大イベントで、この年の経済効果は1137億円(善光寺御開帳奉賛会発表)にも上る。

ご開帳を完全に中止してしまえば、県内経済に計り知れない影響を与えてしまう。検討を重ねた結果、1年延期し、2022年に実施することになった。だが、先行きは不透明である。