日本の埋葬法は99.9%が火葬だが、ムスリム(イスラム教徒)は土葬だ。欧米の先進諸国でも土葬の割合のほうが火葬よりも高い国は多い。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「在日ムスリムは約20万人、専用の土葬用の墓地は全国に7カ所しかなく、新規で作ろうとしても地元住民に、生活用水の汚染や農業の風評を理由に猛反対されてしまう」という――。
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在日ムスリムは約20万人、土葬文化の彼らをどう受け入れるべきか

今、国内におけるムスリム(イスラム教徒)の「お墓問題」が深刻な状況になっていることをご存じだろうか。

ムスリムの埋葬法は土葬だ。しかし、国内のムスリム墓地は数が少なく、絶対的に不足している。土葬墓地を新規でつくろうとしても、住民の反対運動が起きたり、土葬が条例で禁止されていたりして、そのハードルは高い。今後、人口減少社会における労働力の担い手としてイスラム圏である東南アジアなどからの外国人の流入が見込まれるが、「死後の受け皿」は整っていないのが実情である。

2020年12月4日、大分県日出町議会の定例会において、地域住民がイスラム人墓地の建設に反対する旨の陳情を賛成多数で採択した。反対の理由はムスリムの葬送法が「土葬」であること。住民らは生活用水が汚染され、農業の風評被害につながる可能性がある、などと懸念を示している。

しかし、現地に住むムスリムにとって、九州初となる土葬墓地を整備するのは悲願であった。九州にはムスリムの墓地がひとつもないからだ。現在、わが国におけるムスリム専用墓地は茨城県や埼玉県、山梨県など東日本に6カ所、西日本では和歌山県に1カ所あるだけ。九州から何百キロも離れた埋葬地への遺体を運搬する費用、その後の墓参にかかる旅費などもバカにならない。

ムスリムと国内で結婚した日本人が改宗するケースも増加

そもそも、ムスリムの墓は日本人のような大きな墓石を置かないが、地下深く掘る必要があり、また、敷地も一般的な墓地の2倍以上必要になる。ムスリムが日本で墓地を求めるときには、コストの面でも相当な負担が強いられているのが実情だ。

現在、ムスリムは日本に20万人ほど存在するといわれている。ムスリムは外国人だけではない。1980年から90年代にかけて労働者として来日したバングラデュ人やイラン人などが国内で日本人と結婚し、配偶者もムスリムに改宗するケースがみられる。彼らの中には、日本で「終活」をする時期を迎えている者もいる。